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それって誰が得するの? DPC

何のために導入されているの?

 効果が同じであるのに、わざわざコストをかけて診療報酬制度を分ける以上、目的が当然あります。厚労省の近年一貫して追求している目標が、医療費の伸びの抑制であり、そのために不要な医療行為の抑制も図っていることを思い出していただくと、DPC制度の目的も自ずから分かります。
 一言で言うと、一人の患者さんに対する医療行為を極少にして早く治した方が医療機関にとって得になる、そんな制度にして競争原理を働かせようと狙っているのです。
 このように厚労省が考えたのは、かつて同じような疾病なのに医療機関によって平均入院期間や治療費が何倍も違うとの調査があったから。「短い」「安い」の医療機関がある以上、「長い」「高い」の医療機関では何かムダ(=不要な医療)があるに違いないというわけです。
 そこで出てくるのが「定額制」。検査にしても投薬にしても原価・経費はかかりますので、不要な医療をすればするほど医療機関の持ち出しになります。だから不要な医療行為も抑制されるだろう、こういう理屈です。
 ただし本家の「DRG/PPS」(前項コラム参照)と異なり、DPC制度は1日あたりの定額制(1入院あたりではない)になっているため、1日単位ではムダが省かれたとしても、入院日数が短くなる保証はありません。
 このためDPC制度による診療報酬は、入院初期に高く、入院期間が延びるほど急激に安くなるよう設定されています。これは、ダラダラと入院させ続けると医療機関が困るということです。そして現在のところ、厚労省のもくろみ通り、DPC制度を試験的に導入した特定機能病院では、平均在院日数が短くなる傾向にあります。
 もちろん、必要な医療行為まで省いたり、治ってもいないのに退院させたりしたら、それは医療機関としての役割放棄で本末転倒。安かろう悪かろうに陥ることなく、必要最小限の行為を密度濃く行うことが医療機関には求められます。
 この「密度濃く必要最小限」を達成するには、事前に治療計画を立てて粛々とこなすことが不可欠。このため医療機関がDPC制度の適用を受けるには、適切な計画を作って不断に見直す体制的裏づけを持っていることが大前提となっています。このような治療計画を「クリティカルパス」といい、計画を不断に見直すことが、さらに医療の効率化と質の向上にもつながると考えられています。
 見直す際には、「短い」「安い」の医療機関を手本にした「標準」に近づくはずなので、やがてすべての医療機関で効率的な質の高い医療が行われるはず、こんな想定の制度なのです。
 ただしここで忘れてならないのは、平均在院日数が短くなっても、年間の入院患者総数を増やさなければ空きベッドが増えるだけということ。このため、医療機関どうしの患者獲得競争が激しくなる傾向にあり、需要を掘り起こすことによる過剰診療はDPC制度下でも起こり得ます。
 また、医療機関がより高い診療報酬を取れる診断名をつける「アップコーディング」という現象を、どうやって防ぐのかも大きな課題です。

ジェネリックと高額医薬品と。  どれだけ薬を使っても1日あたりの支払額が一定なので、病院からすると同じ効果なら安い薬を使った方が得です。そこでDPC制度導入病院ではジェネリック(07年1月号「ジェネリック特集」参照)の処方が増えると見られています。  逆に高い薬は避けられがちです。特に新しい抗がん剤などは一回使っただけで病院が持ち出しになる例も珍しくなく、せっかくの新薬を使えない原因となっています。

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