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特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

がんの可能性 そう言われたら

治療が始まるまで若干の時間があります。

 初めて医療機関に行ったその日に、がんの治療が始まることはありません。また、既に症状がひどく出ているのでなければ、即入院もないはずです。特殊な例を除き、がんの治療が始まるまでに数日から数週間は検査が行われます。
 昔と違って、本人に中身を知らせずに検査する医療機関はないので、がんの疑いがあることは本人も分かっているはず。「さっさと治療を始めてくれ」と思うかもしれません。でも実は、「がん」と確定させ、どのように治療すればよいか判断するには、前もって全身の検査が必要なのです。
 そして、その期間、患者さん側でも、ある程度は情報収集したり家族で相談したりすることができるわけです。決断の場面で後悔しないためにも、無為に過ごしたくないところです。
 とはいえ、状況を正しく把握していないと、すべきことの方向を間違える可能性があります。その期間に何が行われるのか、全身検査の必要な理由から順に説明します。
 「がん」と「がんでないもの」との間にクッキリ線が引けるように思っている方も多いと思いますが、実はそうではありません。
 画像診断や症状などから間違いないと思われるものでも、細胞を実際に取って調べる「病理診断」をしなければ確定できません。特に早期の場合は、病理なしの判定は不可能ですし、たとえ病理診断をしたとしても、人によって判断の分かれるグレーゾーンが存在します。だから、いきなり治療に入るのではなく、本当に「がん」か、精査するわけです。
 「がん」であれば、特殊なものを除いて治療すべきです。ただし、年齢・体質や発生部位、進行度によって「がん」も性質が千差万別で、その標準的な治療法も異なります。
 がんを全滅させる「完治」が望める時に全滅させ損なうと、いずれ再発する恐れがあります。「治療が足りない」ことは避けたいところです。
 しかも、がんの三大療法として確立している「手術」「放射線照射」「化学療法」(5頁コラム参照)は、どれも一度始めたら、たとえ失敗したと思っても治療前の状態に戻して他の方法でやり直すことはできない一発勝負です。
 一方で、治療は無条件にありがたいものではなく、体を傷つける(「侵襲」と言います)ことや生活に制約を与えることから、肉体的にも精神的にも苦痛となります。全滅が望めない時に全滅をめざすような過剰な治療は避けるべきですし、軽くて済むならそれに越したことはありません。
 治療すべきか否か、治療するとしたらどのような方法が最適かを検討するために、「がん」であるかないか、がんがどこにどのような状態で存在しているか可能な限り確かめ、そのうえで治療のメリットとデメリットとを天秤にかけるのが望ましいことになります。
 ですが残念ながら、現代の医療では「がんか否か、どこにあるか、どんな状態か」が一度ですべて分かるような検査はありません。
 よって、たとえば「大腸に腫瘍があるかないか内視鏡で見て、次に脳に腫瘍があるかないかCTで見る」という風に、がんがあるかもしれないと想定される部位ごとに適した検査を、いろいろと組み合わせることになります。
 検査は予約が必要で待ち時間のあるものが多いので、一度では済まずに何度も通院しなければならないことになります。だから治療法が決まるまでに数日から数週間かかるのです。
 そして、治療のメリット・デメリットというのは、医師だけで決められるものではなく、本人・家族が何を大事と考えるか、その事情や価値観に大きく左右されるものです。自分にとって何が大事なのか、この期間にぜひお考えください。

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