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みんな悩んでる 尿のトラブル
トイレが近い、急な尿意でがまんができない、笑ったりおなかに力を入れると漏れてしまう......。加齢や出産、肥満、便秘等さまざまな原因で、尿の回数が多くなったり漏れやすくなったという話、他人事ではないという方も多いでしょうか。実際、60歳代で約70%、40歳代でも約45%の人がこうした排尿トラブルを経験ずみ。しかし問題が問題だけに人に相談しづらく、外出をためらったり出先で水分補給を控えるという話もよく耳にします。
でも、それでは気持ちの面でも健康面でもマイナスが大きすぎます。QOL(生活の質)向上のために、できることを考えていきましょう。
おしっこの出るしくみ
おしっこ(尿)をつくり、たくわえ、体の外に出す働きを担う器官を総称して、「泌尿器」と呼びます。体内の血液をろ過して尿をつくる「腎臓」、尿を膀胱へ送る「尿管」、尿をためておく「膀胱」、尿を外に出す「尿道」、それぞれが働き合って排尿のシステムが機能しています。
通常、私たちはごく自然に、膀胱に尿を数時間たくわえ、ある程度たまるとすべて外へ出す作業をくりかえしています。これは、膀胱と尿道の筋肉のゆるむ・締まるという動きを、自律神経が絶妙に調節しているからなのです。
自律神経は、内臓、血管などの働きを調節し、体内環境を整える神経。私たちの意思と関係なく働くので、たとえば内臓や血管を思うように動かすことはできません。反面、排泄のほか呼吸、消化、体温などを無意識のうちに調節できるのもそのおかげです。
自律神経には交感神経と副交感神経があり、ウラ・オモテの関係で働いています。
膀胱に尿をためる間は、主に交感神経が主導権を握って筋肉等を調節しています。尿がたまると膀胱から「たまったよ」という信号が脳に送られ、尿意を感じます。ただし限界に至るまでは、脳が「出しちゃだめ」信号を泌尿器へ送るので、がまんが可能。交感神経のふんばりどころです。
そしていよいよトイレで用を足すとなると、脳が「出してよし」信号を送ります。すると主な調節者が副交感神経に交代し、尿をためたり止めたりしていた筋肉がそれぞれ逆に動いて尿が排出され......スッキリ!
しかし、この排尿システムに障害が発生することも意外と多いから面倒です。筋肉が勝手な動きをして尿が漏れてしまったり、やたらと尿意を感じたり、という事態になるわけです。次頁から詳しく見ていきましょう。
過活動膀胱ってなに?
排尿の悩みで一番多いのが、過活動膀胱です。カカツドウボウコウ? 耳慣れないかもしれませんが、症状はよく聞くものです。
①尿意切迫感
急に尿意をもよおし、漏れそうで我慢できない。
②頻尿
トイレが近い。夜中に何度もおしっこに起きる(夜間頻尿)。日中8回以上、夜間も2回以上なら疑いが濃厚。
③切迫性尿失禁(尿漏れ)
急におしっこをしたくなる。トイレまで我慢できずに漏れてしまうことも。
40歳以上の男女の8人に1人に、過活動膀胱の症状が見られるという調査報告もあります。その半数に切迫性尿失禁があるとのことです。
気になる過活動膀胱の原因ですが、以下が考えられます。
まずは、脳と膀胱(尿道)の筋肉を結ぶ神経のトラブルによるもの。たいていは脳卒中や脳梗塞などの脳血管障害、脳の障害、あるいは脊髄の障害の後遺症です。「膀胱に尿がたまったよ」「まだ出してはだめ」「もう出してよし」といった信号のやりとりが正常に働かず、結果、膀胱に尿が少ししかたまっていなくても出そうとしたり、膀胱や尿道を「締める」「ゆるめる」の連携がうまくいかなくなってしまうのです。
また女性の場合、加齢や出産から、膀胱・子宮・尿道等を支える「骨盤底筋」という筋肉が弱くなったり傷んだりすることがあります。すると排尿がうまくコントロールできなくなってしまいます。
そして実際のところ一番多いのは、単なる加齢による調節機能の衰えだったり、原因の特定できないケース。何らかの原因で膀胱の神経が過敏にはたらいてしまうなど、複数の要因がからみあっていると考えられています。
検査も治療もいろいろあります
心あたりのある人は、やはりまず医療機関を受診しましょう。問診では、どんな症状で困っているのかを具体的に伝えてください。「過活動膀胱症状質問票」に記入しながら症状の程度を調べ、あわせて腹部エコー検査(残尿量の測定)、血液検査、尿検査なども行います。さらに調べるには、尿流測定(1回の排尿時間や尿の量、勢い、パターンを測る)や、時間を区切って漏れた尿の量を測るパッドテスト、咳やいきみで尿が漏れるか実際にやってみるストレステストなどを行います。排尿日誌をつけて様子を見ることも指導されるでしょう。
治療方針もいろいろです。
薬物治療では、主に「抗コリン剤」が使われます。尿漏れは、膀胱が収縮して尿が押し出されておきるものですが、膀胱への収縮の信号となっているのはアセチルコリンという物質。そこでアセチルコリンの働きを弱める薬を使うのです。飲み始めて1週間~1ヵ月で効果が現れます。
一方、機能の弱まった膀胱や骨盤底筋を鍛える行動療法を取り入れると、症状をより軽くすることができます(コラム参照)。また、電気や磁気で刺激を与えて、骨盤底筋の収縮力を強化したり膀胱や尿道の神経の働きを調整する電気刺激治療も行われています。
膀胱訓練で排尿コントロール力を 尿意切迫感や尿漏れを気にして、尿が少ししかたまっていないのにトイレに行くクセをつけてしまうと、膀胱が過敏になって尿をたくさん蓄えることができなくなってしまいます。尿トラブルがより悪化してしまうのです。そこで膀胱に尿をためる訓練をして症状を改善させます。まずはトイレへ行くのを少しだけ我慢。最初は5分くらい、1週間ほど続けます。しだいに10分、15分と、我慢する時間をだんだん延ばしていきます。排尿日誌をつけると傾向がわかり、尿トラブルの頻度の高い時間帯に訓練の時間を合わせるなど、対策が立てやすくなります。いずれにしても、医師に相談して正しい指導のもとに始めてみましょう。
「力むと出てしまう」のは。
くしゃみや咳をした瞬間、重いものを持ち上げたとき、階段の昇り降りで、大笑いした拍子、テニスやジョギングなどの運動時――瞬間的におなかに力がかかったときに尿が漏れてしまう、そんな症状に悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。女性の4割を超える2千万人以上が、この「腹圧性尿失禁」に悩まされているといわれます。40~50代女性の3人に1人が尿漏れを経験しているという調査報告もあります。
正常な状態では、おなかに強い力(腹圧)がかかった場合、膀胱と尿道を支える「骨盤底筋」という筋肉が尿道を引き締め、尿が漏れるのを防いでいます。腹圧性尿失禁は、この骨盤底筋が弱くなったり傷んだりして尿道をうまく締められずに尿漏れを起こすもの。過活動膀胱による切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁の両方の症状がみられる人もいます。
腹圧性尿失禁が起こるのは、ほとんどが女性。男女の体の構造が違うためです。そもそも女性は男性よりも尿道が短く、尿道を閉める筋肉の力も弱いので、尿が漏れやすいつくりをしているといえます。さらに加齢やそれに伴う血液中の女性ホルモン濃度の低下、肥満、出産などにより、女性は骨盤底筋がゆるみやすいようです。そうなると腹圧が加わった瞬間の尿道の閉まりが悪くなり、臓器が下がって圧迫され、尿が漏れやすくなります。特に出産の際に難産で骨盤底筋への負担が長時間続いた場合や、多産で損傷の修復が間に合わないような場合に尿漏れが起きやすいようです。
また、子宮筋腫や子宮・卵巣などの異常(腫瘍など)のために膀胱が圧迫されて頻尿になることもあります。
骨盤底筋体操 継続がカギ
いずれにしても放置せず、早めに医療機関を受診しましょう。診断の流れは過活動膀胱とほぼ同様です。問診や各種検査に加えて、パッドテストやストレステストを行うこともあります。
薬による治療もありますが、尿失禁がある程度以上なら、骨盤の靭帯をサポートする手術が一般的。尿道を支えるメッシュやテープを挿入します。入院は数日間で済むようです。膀胱以外にも子宮や直腸が下がってきていないか調べ、一緒に補強することもあります。
しかしなんといっても有効なのは、「骨盤底筋体操」です。ゆるんでしまった骨盤底筋を鍛えて、臓器が下がるのを防ぎ、尿道や肛門を締める力やコントロールする力をつけることで、尿漏れを防ぐ効果が期待できます(過活動膀胱にも効果あり)。医師に相談し、指導を受けてみてください。個人差はありますが、だいたい3カ月~半年続けると効き目が現れてくるようです。根気が肝心。誰か一緒にやる人を見つけたり、1日おきにするなど、続ける工夫も必要かもしれません。
骨盤底筋訓練のやりかた 尿道・肛門・腟をきゅっと締めたりゆるめたりします(2~3セット)。次は、ゆっくりぎゅうっと締めて3秒間ほど静止、その後、ゆっくりゆるめます(2~3セット)。引き締める時間を少しずつ延ばしていき、全体の長さを、5分間程度から始めて10~20分まで、だんだん増やしていきましょう。 基本姿勢でできるようになったら、立って机に両手のひらをついた姿勢や、座って両足を床につけた姿勢など、いろいろな姿勢でお試しを。通勤途中や入浴中や家事をしながらやってみてください。
まだあります、尿トラブル。
おしっこにまつわるトラブルは、もちろんまだまだたくさんあります。ここでは特にこの季節、女性に多い膀胱炎と男性に多い尿閉、そして加齢とともに増える夜間頻尿を見ておきましょう。
膀胱炎の直接的な原因は細菌感染、8割は大腸菌です。膀胱炎が女性に多い理由のひとつは、尿道から肛門までの距離が短く大腸菌に感染しやすいこと。それでも健康ならば、体は細菌に対する免疫を持っていますし、排尿で細菌も洗い流されます。ところがおしっこを我慢したり、極度の疲労や風邪で体力や免疫力が落ちると、細菌に負けて膀胱炎を引き起こすのです。
さらに女性の敵「冷え」(〓vol..41参照〓)も、膀胱炎の大きな要因です。粘膜の温度が下がると細菌が繁殖しやすくなるため、冷え症や低体温症の女性は膀胱炎をくりかえしたり、慢性化しやすいのです。「冷え」に対しては、西洋医学はあまり得意ではなく、漢方薬がおすすめです。保険もききますので、医師に相談してみてください。
一方、男性に特徴的なのが前立腺肥大による排尿困難や尿閉(膀胱に尿がたまっていて尿意もあるのにおしっこが出ずに苦しむもの)です。特に冬は尿閉が増えます。冬は風邪をひくことが多く、風邪薬にはしばしば尿道を狭めたり膀胱の筋肉を弱める=おしっこを止める成分が含まれているのです。アルコールや長時間座ったままの姿勢も症状を悪化させるので要注意。予防としては、適温でゆっくり入浴するなど下半身を冷やさないよう心がけてください。
夜間頻尿と生活習慣病
さて男女問わず気になるのが、夜中に何度もトイレで目が覚める夜間頻尿です。過活動膀胱でも少し触れましたが、最大の原因は、結局のところ加齢ということになります。
歳を重ねるにつれ誰でも腎臓の機能が低下し、夜のあいだ尿の産生を抑制するホルモン(バソプレッシン)の分泌が減少してしまいます。すると尿が濃縮されないぶん量は多くなるのです。また歳をとって心臓の筋肉が弱まり、血のめぐりが悪くなると、就寝して横になった際に一気に心臓に戻り、腎臓に送られます。腎臓は血液をきれいにしようと急いで尿をつくるので、夜に尿が増えることになります。
さらに、歳とともに膀胱の容量も少なくなっていきます。特に前立腺肥大症だと毎回きちんと排尿しきれずに残尿ぶんだけ膀胱の空きが減り、どうしてもトイレの回数が増えることになるのです。
といっても夜間頻尿はある程度いたしかたないこと。逆におしっこを懸念して水分補給を自制しすぎると、脱水の恐れがありますので、医師の適切な指導にもとづいて改善していくのが安心です。実は生活習慣病が潜んでいる可能性もあります。糖尿病だと喉が絶えず渇き、おしっこの量と回数が増えるのは有名な話です。また、あまり知られていませんが高血圧も夜間頻尿の原因のひとつ。血液中のホルモンのバランスが崩れるために起こります。
夜間頻尿に限らず、表のとおり、病気がもとになっている排尿トラブルはさまざま、命にかかわるものもあります。気になることがあったら原因を見極めるためにも一度、受診されてはいかがでしょうか。