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それゆけ!現場リポート①


so1-4.JPG 奥さんが、ペットボトルに飲み口を付けた容器を持ってきて、口元に持っていき水を含ませます。

長尾 痰が切れへんねんな。水分、ちびちび補給してな。からからや。飲んだ後、しばらく体起こして。
 うん。
長尾 指突っ込んで出さな、あかんかな。お父ちゃん、もっと飲まないと。まだまだ頑張らなあかんで。一家の大黒柱や。お母ちゃんも腰悪いし、糖尿もあるし。
 疲れるんや、朝も起きられへん。
長尾 介護保険払い忘れたら、えらいことなるなあ。介護保険使えなくてお母ちゃん、老老介護でいつ倒れるか分からへん。息子もあんまり体よくないのに、店やっとるし、大変や。
 うん、息子がやってくれるけどな、つらいわ。
長尾 とにかく看護師に全部言うてな。何かあったら電話して。その方が早いからな。無介護保険者にはきついな。でも入院もお金かかるしな。
 おしめも結構かかるよ。
長尾 そうやな。年金もかけてへんかった。
 そう、年金ない。うちのお父さんは年金かけなくても、商売してたらなんとかなると思っとってん。

 クリニックへ戻る道で、長尾医師が語ります。

長尾 今日見てもらったみたいに介護保険に入ってない、年金も入ってない、無保険者がいます。僕が訪問するお宅でも、お金がないからと言って「(往診に)来てくれるな」と断られることがありますよ。今はそんな状況です、でも他にも、もっともっと大変な現場があるんです。今はセーフティーネット(生活保護)に引っかかっても、引っかからなくても大変なんです。
 「共助」とか言いますけど、実際はヘルパーやケアマネが頑張っているんです。はっきり言ってしまうと、ボランティアでみんなやってます。うちの場合、訪問看護とケアマネの事業所を合わせて人件費率が89%で赤字です。言ってしまえば、やらない方が儲かるんですよ。だけどそういうことじゃないでしょう。訪問看護ステーションは、どこもそういう状況です。
 僕はこういう生活の現場から医療を変えていきたいと思ってます。大腸の中を見てから何を食べたらいいか考えるように、中流、下流から今の医療の上流を変えていきたいと思ってますよ。

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