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がん② きほんのき(下)


治療法を決める前に。

 診断が付いたら、次は治療方針の決定です。
 治療の目標を大雑把に分けると、がん細胞を体内から一掃する「根治(完治)」、一掃は無理でも当面命を取られないようにする「共存・延命」、苦痛を抑えたり取り除いたりをめざす「緩和」となります。
 それぞれの目標に応じて、基本となる治療法が様々に組み合わせられます。まずは基本となる治療法を、がんの分類に照らしながら、ざっくり押さえておきましょう。
 がんを医学的に分類すると、がん化する細胞の種類によって、癌、肉腫、白血病などに分かれるのでしたね(前回コラム参照)。
 癌と肉腫、つまり固形腫瘍の場合、早期で原発部位に留まっているのであれば、丸ごと取り除いて完治を望むことが可能です。このような場合に行われるのが「局所治療」で、外科的に切除する「手術」が最も一般的です。がんの種類によっては「放射線治療」が選ばれることもあります。
 放射線治療は、X線やガンマ線、重粒子線、陽子線といった放射線を、がん細胞へ照射して死滅させる方法です。最大の特徴は、「切らずに治す」点。低侵襲、つまり臓器の形態や機能を温存でき、多くは手術よりQOL(生活の質)の低下が少なくて済みます。
 これに対して白血病など全身性のがんや、固形腫瘍でも血管やリンパ管を通じてがん細胞が全身へ回ってしまっている(遠隔転移)場合には、「全身療法」が選択されます。具体的に行われるのは、「化学療法」と呼ばれる抗がん剤の投与です。最近では、がんを狙い撃ちにする「分子標的薬」が進歩しています。また、乳がんや前立腺がんなどでホルモンによく反応する性質がある場合には、ホルモン剤等を使った「ホルモン療法」も選択肢となりえます。
 ほとんどの抗がん剤は細胞分裂を阻止したり、細胞の自殺を促すように働きます。がん細胞以外の細胞分裂の多い細胞にも作用しますので、課題はご存じ、副作用です。効果自体も場合によって異なるので、向き不向きを見極めながら副作用を上手にコントロールする必要があります。なお、分子標的薬は、がん細胞以外に全く悪影響がないことをめざした抗がん剤として開発が進んできたものです。しかし、副作用がゼロのものはまだできていません。
 最近では、根治率向上をめざすために手術や放射線治療に化学療法を組み合わせることも多くなっています。

何が大切か必ず伝えよう

 治療方針は基本的に医師の側から提案するものですが、患者側からも伝えておくべきことがあります。
 自分にとって何が大事なことなのかです。もう少し具体的に表現すると、自分の人生にとって今回のがんがどのような障害となっているか、今困っていることは何か、治療後どういう人生を歩みたいと考えているのか、きちんと伝えてください。
 例えば娘の結婚式を2カ月後に控えているなど、大切な予定がある場合も、忘れず医師に伝えてください。状態によっては、それを考慮に入れて治療計画を立ててもらえるかもしれません。
 治療は、危険を冒して「大事なもの」を守りに行くこと。決して楽ではないのが普通です。「大事なもの」そして「めざすもの」が医師と共有できてこそ信頼関係も結べますし、勇気を出してがんと闘うこともできます。
 何を大事に考えるかは、本人や家族にしか分からないことです。目標、手段、成算についてきちんと医師と話し合い、認識をそろえてください。でないと、医師は「延命」治療を施しているつもりなのに、患者は「根治」をめざしている、なんてことが実際によくあるのです。こんなところでズレが生じては、後から悔んでも悔やみきれないですよね。医師からしても、治療を始めた後で「私は他のものを望んでいた」と言われたら、やり直しできないだけに困ってしまいます。

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