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がん④ 栄養なぜ大事なのか


悪液質を和らげる、それも栄養の働き

 恐ろしい、がん悪液質状態ですが、防いだり改善したりすることも可能です。がんそのものの治療に加えて、慢性炎症を抑制する、筋肉減少を最小限にとどめる、などの措置を行うのです。その際、武器となるのが栄養です。
 単に栄養状態が悪くて痩せているのとは違って、悪液質の場合は強制的にカロリーを与えたとしても、体重は戻りません。アメリカ合衆国でかつて、進行膵臓がんを対象に1日に3000キロカロリーの点滴を行う臨床試験が実施されたことがありますが、結果、体重増加は3割に見られただけで、残りは良くて現状維持、ともすれば減少してしまったのです。栄養が与えられても、それを体に取り入れることができないのです。
 炭水化物の代謝では、がん細胞は好んでブドウ糖をエネルギー源として利用し、副産物として乳酸を作り出します。一方、患者の側は多大なエネルギーを使ってその乳酸を再びブドウ糖に変換するのですが、それをまた、がん細胞が利用してしまうのです。炭水化物が過剰だと、がんがエネルギーを獲得する一方、患者自身はかえって多くのエネルギーを失ってしまうわけです。
 また、がん悪液質では、がんと患者本人とでたんぱく質の取り合いになりますから、栄養としてたんぱく質を補給することが必要。筋肉のたんぱく質の減少を食い止め、さらに筋肉の合成を促進します。
 一方、脂質代謝は炭水化物やたんぱく質と対照的で、一部のがん細胞はエネルギー源として脂質を利用することが困難なようです。しかしがん患者自身は、脂質を酸化させることでエネルギーを得ることができます。だったら高炭水化物食よりも高脂肪食のほうがよさそうに思えますよね。確かにそれを示唆する報告もあります。ただし、脂肪の種類が重要なのです。

青魚が効果的

 実は、脂肪の種類によっては、悪液質を確かに改善できることが分かってきました。
 食べ物に含まれる脂肪の成分には、脂肪酸というものがあります。ここで注目すべきは、n-6系(オメガ‐6)脂肪酸とn-3系(オメガ‐3)脂肪酸の2種。どちらもヒトが生きていく上で欠かせないのですが、体内では合成できないので食品から摂らねばなりません。n‐6系脂肪酸は、菜種油、コーン油、紅花油、ゴマ油などに多く含まれます。どれもサラダ油としてお馴染みですね。一方、n‐3系脂肪酸の代表格がEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)。魚の脂身に豊富です。動脈硬化を遅らせて心臓病や脳卒中を防ぐ成分としてご存知の方も多いかもしれません。
 この両者、何より大事なのはバランスです。n-6系脂肪酸は炎症や腫れ、がんの転移を助長する性質を持っていて、n-3系脂肪酸はそれを抑制する働きがあるからです。健常な人でもn-6:n-3の比率が4:1になるように摂るのがよいとされています。
 ところが、昨今の食生活ではどうしてもサラダ油を摂取する機会が多く、n-6系脂肪酸が過剰になりがち。n-3系脂肪酸も努めて摂るようにすることが大切です。
 特にEPAは、炎症性サイトカインの働きを抑制し、必要な筋肉のたんぱく質の分解を抑えるように働くことが分かってきました。1日2gの摂取で、体重減少や体力の低下を予防できるといいます。
 以上から、たんぱく質とEPAの補給を念頭に置いた食事が、がん悪液質を改善するのに有効と言えそうです。となるとやはり、イワシ、サンマ、アジ、サバといった青魚を積極的に食事に取り入れたいもの。もちろんどんな栄養素も食材も同じものばかり摂取するのはよくありませんから、ミネラルやビタミンなども含め、全体としてはバランスよく食べることも忘れないでください。

サプリメントも上手に 70-1.1.JPG 食事ができる場合でも、必要な栄養素を食事だけで摂るのはかなり難しいもの。例えば前頁のEPAを1日2gという話も、黒マグロやエビで900g、メカジキなら2kgを食べなければならないのです。まして食欲がない時には、その何分の1だって無理かもしれません。そこで試していただきたいのが、健康食品やサプリメントです。▽当然のことながら、「これでがんが治る」と謳っているような商品はいけません。が、お役所がお墨付きを与えている保健機能食品や、医師の判断で処方されたサプリメントであれば、指定の用法をきちんと守ることで栄養を効率よく摂取できます。バランスを考えた食事とこうした補助食品を組み合わせて、「食べる」ことから体力の維持・回復をめざしてみましょう。
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