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がん⑦ 抗がん剤なぜ効くのか3

高額な治療費、そして未承認薬問題。

 分子標的薬を使うとなったら、避けて通れないのが治療費の問題です。
 実は、分子標的薬は従来の細胞毒系の抗がん剤による治療と比べて、薬剤費が圧倒的に高いのです。ひととおりの治療で総額100万円以上、あるいは月20万円以上かかるようなケースも出てきています。高額療養費制度という補助制度もあり、適用されれば一定額以上は後で戻ってくるのですが、それにしてもとりあえずは、全額を窓口で支払わねばなりません。患者さんのおかれている境遇を考えれば、かなりの負担です。効果が出るのか、どれだけ出るのか、分からないのに大きな負担を強いられるとなれば、「お金持ちにしか手の届かないもの」と言いたくもなりますよね。
 また、分子標的薬をはじめとする抗がん剤でよく話題になるものとして、ドラッグ・ラグと未承認薬があります。
 ドラッグ・ラグとは、ある薬が海外で使われていても、日本ではまだ厚労省から承認されていない状態のことです。対抗手段として、その「保険の利かない薬」を何とか使っていこうというのが未承認薬。輸入が必要な薬もあれば、特定のがんでは保険が適用されていても、それ以外の用途で未承認、という薬もあります。
 ただ、未承認薬はあくまで例外的手段。先に説明した通り、海外で承認されている薬でも、人種間の違いも考えねばなりません。命に関わる有害事象の可能性もあります。1回に数十万円という高額な薬もありますから、金額に見合うかどうか、慎重に考えてみてください。最低限のタイムラグができても、日本人の安全性を確認するほうが無難では? ちなみに最近は以前に比べ、承認スピードも速まってきています。

低リスク高リターン、でも高コスト

 こうしてみると、従来の細胞毒系の抗がん剤が「高リスク・中リターン・低コスト」であったのに対し、分子標的薬は「低リスク・高リターン・高コスト」と言うことができそうです。副作用を始めとするリスクが軽減され、リターンすなわち治療効果は上がりました。従来の化学療法ならこのリスクとリターンだけ気をつけていればよいことが多かった(最近は効果の高い抗がん剤も多いので)のですが、分子標的薬ではコストについても考慮しなければなりません。リスク・リターン・コスト、3つの軸のバランスを見ながら治療内容を選択していくことになります。
 なお、「高リターン」について付け加えるなら、分子標的薬は、外来・在宅治療を後押ししてくれる強い味方でもあります。抗体製剤は注射薬もしくは点滴で外来で済みますし、低分子化合物の多くは内服薬になりますので自宅で服用することになります。不自由な入院生活を強いられずに済み、治療中もQOLを維持しやすいというわけです。ただし、入院とは違って服薬の管理も病院任せとはいきませんし、何らかの有害事象が起きるのも自宅ということになってきますから、その点だけは心構えを。緊急事態について日ごろから医師にきちんと指導を受け、家族と相談しておくようにしましょう。
 その他、分子標的薬の研究・開発の面では、あらかじめ効く人と効かない人をどうやって見分けるか、有害事象の現れる人と現れない人をどう見分けるか、というのが目下の課題となっています。これらを事前に判断できる優れたマーカーがあれば、リスクはより軽減でき、コストの削減にもつながります。
 いずれにしても分子標的薬は、いろいろな意味で発展途上の段階には違いありません。ただ、それによって劇的に救われる患者さんが増えているのも事実。目覚ましいスピードで進歩しているだけに、幾多の問題をクリアして、より多くの人が安心して利用できる環境が整うよう期待したいところです。
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