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がん⑪ 代替療法の正しい使い方


温熱でがんをコントロールする。

 もう一つご紹介するのが、がんの温熱療法「ハイパーサーミア」です。がん細胞が正常細胞と比べて熱に弱いという性質を利用したがんの治療法です。以前から、顔面の肉腫が丹毒という皮膚の細菌感染症による発熱で消失したり、あるいは自然治癒したがん患者さんの約3分の1で発熱が見られたとの報告があり、がんが治ることと発熱の間には何らかの関連がありそうだと言われていました。
 実際、がん細胞は42・5℃以上になると消滅し始めます。ですから、がん組織を43℃程度に加温すれば、がんの治療が可能となるわけです。この温度では正常細胞は障害されません。これがハイパーサーミアの原理です。通常の治療法では治すことが難しい局所進行がんや再発がんの治療に応用されています。
 しかし、体の中の大きながん組織全体を43℃に温めることは、実は大変難しいのです。加温を目的に、患者を熱い風呂に入れたり、あるいは赤外線装置を使う施設もありますが、そのような方法では皮膚表面から数cm以上離れた身体深部の温度は上がりません。血流などにより熱が体の全体に広がるためです。
77-1.2.JPG 現在のハイパーサーミアの主流は、電子レンジの原理で、2枚の電極で身体を挟み、電磁波(800万ヘルツ程度のラジオ波)を当てる「サーモトロン」という装置を使うものです。針などを刺さずに深部まで加温することができ、1996年から健康保険が適用されています。
 さて一方、41℃程度では、がんに対する直接的影響はありません。ですから以前は、サーモトロン等で温度を上昇させたがん組織の周囲や、病巣の加温が不十分な場合には、治療効果が得られないとされていました。
 ところが最近、体温より少し高い41℃程度の加温でも、実は治療に役立つことが分かってきたのです。

各種がん治療の効果増強も

 体温より少し高い41度程度にがん病巣を加温すると、放射線や抗がん剤の効果を増強することができます。これは、温度が低いことから「マイルド・ハイパーサーミア」と呼ばれます。
 放射線治療との併用は、脳腫瘍、食道がん、乳がん、大腸がん、膀胱がん、軟部腫瘍等で試みられています。通常は放射線が効きにくいがんでも腫瘍抑制効果が得られ、また放射線の副作用を減らしたり、放射線治療後に残ったがん細胞を排除してその効果を高めること等も期待できます。
 抗がん剤との併用では、加温により抗がん剤の腫瘍組織への移行が1・5~2倍に増加するとされています。腫瘍周囲の血管を拡張させて、抗がん剤の取り込みを強めるためです。抗がん剤を効かなくさせる物質の分泌を抑えることも明らかにされました。
 その他、腫瘍に栄養を送る新生血管ができるのを抑制する効果も報告されています。

気持ちがいい温熱療法

 体を温めることは、昔から健康法の一つでした。そもそも風邪の時の発熱も、体温を上げることで生体防御反応の働きが加速されることから体が獲得した、目的にかなったシステムです。もちろん、体内の特定の部位を加温するハイパーサーミアは、風邪による発熱や温泉療法などとは異なる治療法ですが、体を温めて血流をよくすることで、免疫力が高まることは間違いなさそうです。
 しかしやはり、がんは難しい病気です。進行がんに温熱療法を取り入れても、さほど大きな効果は期待できません。標準治療を優先させるべきことは当然ですし、温熱療法はあくまでも放射線や抗がん剤による治療の脇役です。
 それでも、がんの治療はほとんどの場合で苦痛を伴うのに比較して、温熱療法は逆に気持ちがいいと感じる患者さんが多いことは特筆すべきでしょう。がん患者さんの多くは体が冷えています。お金のかからない簡易温熱療法としては、40℃程度のぬるめの風呂に朝夕20分ずつ、ゆったりと入ることをお勧めします。血行が良くなり、症状の改善が期待できるからです。

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