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がん低侵襲治療③ 子宮がん


浮腫と膀胱障害を軽減

84-2.5.JPG 膀胱障害や両脚の浮腫を軽減する目的の低侵襲化も進んできています。
 膀胱障害は、尿のたまる感覚が鈍ったり、力が入らず尿が出にくくなったりするもので、場合によっては失禁につながります。「特に広汎性子宮全摘術では、周囲の多くの神経に影響が及ぶために、障害の程度が大きくなると考えられています」と竹島部長。
 脚の浮腫は、骨盤内リンパ節を取ることでリンパ液の流れが滞り起きてくる「むくみ」のことです。そのだるさ、つらさは想像以上で、長時間立ったり歩いたりする仕事は続けられず、転職を余儀なくされるケースもあるほどです。「見た目には大きく変わらないことも多いのですが、子宮頸がん治療とその後のQOL(生活の質)に最も関与していると言えるほど深刻なのです」

3通りのアプローチ

 具体的な低侵襲化のアプローチとしては、大きく3通り考えられます。子宮や膀胱の周辺についての縮小手術、センチネルリンパ節の研究、そして、術後化学療法です。
 まず縮小手術について説明します。
 MRIなどで腫瘍の直径が2cm以下と確認され、なおかつ「扁平上皮がん」(進行が緩やかとされていて子宮頸がんの7割を占めます⇔腺がん)と病理診断された場合、リンパ節への転移は少なく再発率も低いことが分かっています。その場合は、広汎性子宮全摘術の手術範囲を、子宮や膀胱の周辺についてやや減らした「準広汎性子宮全摘術」が検討されます。
「広汎性子宮全摘術より手術自体が容易で、出血量が減り、手術時間も短縮できます。術後は膀胱機能が完全に回復してから退院となりますが、通常は平均20日の入院日数が、14日に短縮できるくらいです」(竹島部長)
 続いて「センチネルリンパ節」の説明に移ります。
 センチネルとは歩哨のこと。乳がんでは既にお馴染みの概念ですが、がんの最も転移しやすいリンパ節が存在するようなのです。そこにがんが存在しなければ、他のリンパ節には転移していないと判断してよいということが、段々と認められてきたのです。
 具体的には、がんの直径が3cm以下の場合、センチネルリンパ節のみを切り取って術中に細かく病理検査を行い、そこにがんが見つからなければ他のリンパ節は温存します。乳がんでは、この病理診断のプロセスが機械化されていますが、子宮がんの場合はまだ人力です。このため竹島部長も、「がん研のように、病理部との連携が綿密でないと、実現できない手法ですね」と言います。
 最後に術後化学療法を説明します。
 浮腫について、「骨盤部分への放射線の照射が悪さをしているのも明らかになっています。ゾウの脚のようにパンパンになってしまう例などは、まず放射線照射の影響です。浮腫だけでなく、腸閉塞や、膀胱障害の悪化も、術後に再発防止のために行う放射線照射が原因であることが分かってきました」と竹島部長。「そこで、再発予防策に化学療法を採用することで、これらの障害を軽減する研究も進めています。全国的にはまだ認知の低い手法ですが、実績を積み、放射線に拠らない術後療法として確立させたい考えです」
 治療法は進歩していますが、がんが大きくならないうち発見するに越したことはありません。定期的な検診等で、早期発見に努めることも忘れないでください。

婦人科がん 「婦人科がん」と言う時は、子宮がんのほかに卵巣がんが含まれます。卵巣がんについて竹島部長は、「左右片方の卵巣にがんが見つかった場合でも、昔から両方の卵巣・卵管と子宮、骨盤内リンパ節まですべて切除するのが常識でしたし、現在でも基本です」と説明します。「それでも一定条件の下に片方の卵巣を残すことが出来るのでは、という研究がようやく始まりつつあります」
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