文字の大きさ

過去記事検索

情報はすべてロハス・メディカル本誌発行時点のものを掲載しております。
特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

がん医療を拓く④ ふぞろいを狙い撃つ


セパレースの働き 可視化に成功

85-2.5.JPG どういう時にセパレースの働きに異常が出るのか調べるには、そもそも正常時にセパレースがどのように働いているのか知る必要があります。しかし、実はその詳細がよく分かっていませんでした。

「セパレースは細胞内にごく微量しか存在しません。そのため、試験管内で実験的に反応を起こさせたり、反応後に生じる物質を検出しようとする従来の生化学的手法では、働く瞬間を把握することが難しかったのです」

 今回、広田博士の研究チームは、ここに突破口を開きました。蛍光色素を用いたイメージング(画像化)技術を利用し、セパレースの働く瞬間を可視化することに成功したのです。

 その結果、セパレースによるリングの切断は、染色体分配が起きる直前に一気に起きることが分かりました。さらに加えて、セパレースのこれまで知られていなかった機能も発見しました。

「セパレースはすべての染色体で一斉にリングを切断した後に自分自身も切断し、その後で細胞分裂を進行させる重要なリン酸化酵素の『cdk』と結合して、その働きを抑え込むことが分かりました」

 cdkを抑え込まないと染色体分配に異常が生じることも確認されました。要するにセパレースは、リングを切るだけでなく、cdkの働きを押さえ込む所でも、染色体の正確な分配に貢献していたのです。

治療への将来性

 ここまで染色体の分配に大きな役割を果たしているということになると、がん細胞では通常の細胞に比べてセパレースのコントロールに異常があるのではないかという推測が成り立ち、診断に役立てられる可能性があります。

 また、分配異常が大きければ娘細胞は死んでしまうということを逆手にとって、がん細胞でセパレースの活性をさらに落とすことができれば、治療法となる可能性があります。

 広田博士は、「今後もセパレース活性プローブを使って様々ながんについてセパレースの活性を調べ、その意義を明らかにしていきます。さらに、多くの化合物の中からセパレースの活性を押さえ込むものを見つけて、がんの治療に利用できないか調べていく予定です。実際、そうした共同研究も始まっています」と意欲を示しています。

開発されたイメージング法

 広田博士のチームが開発した手法は以下の通りです。
 セパレースは、染色体間のリングの決まった箇所を切断します。広田博士らは、その箇所を人為的に作り、それを赤と緑の蛍光色素で挟みました。「これを染色体にくっつけると(下図)、赤と緑の蛍光色素が合わさって、染色体が黄色に見えます。ところが、セパレースが働いて当該箇所を切り、緑の蛍光色素が切り離されると、染色体は赤く見えるようになります。
 この「セパレース活性プローブ」を細胞に仕掛けることによって、僅かなセパレースの活性を鋭敏かつ正確に捉えることに成功しました。
85-2.6.JPG

  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
掲載号別アーカイブ