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がん医療を拓く⑥ 遺伝性がんから新治療が見える


遺伝子で分かること分からないこと

 遺伝性がんの原因となっている遺伝子の探求と機能解析は、一般がんのメカニズム解明にもつながるのでないか、と盛んに行われてきました。病理学上の形質やホルモンの関与などに共通した性質が見られれば、発症、進展、転移、悪性化についても共通した理解が可能だろう、というわけです。
 特に研究の進んでいる分野が遺伝性乳がんで、原因遺伝子の一つ「BRCA1」を発見したのが実は他ならぬ三木部長です(コラム参照)。遺伝性乳がんには、もう一つ「BRCA2」という原因遺伝子も見つかっています。
 「そこで現在、遺伝性乳がんの検査はBRCA1・2を解析して行われています。ただ、家系から見て明らかに遺伝性乳がんと考えられる人を対象に遺伝子検査を実施しても、6割の人にしかBRCA1・2の異常が見つからないのです」(三木部長)
 残る4割の人は、別に原因遺伝子があるのかもしれませんし、検査技術上の限界で異常を見つけきれていないのかもしれません。というのも、遺伝子検査でチェックされるのは、遺伝子の中でも「エクソン」と呼ばれるタンパク合成情報を含む領域のみで、DNAの1~2%でしかありません。残りの98%は「ジャンクDNA」などと言われ、長らくガラクタ扱いされてきました。しかし近年では遺伝子発現の制御など重要な役割が見つかり始めていることから、「遺伝性がんについても、その領域に何か重要なものが隠れているのかもしれません」。

なぜ乳がん?

 BRCA1と2は、どちらもよく似たエクソン構造を持つ遺伝子で、協働して二本鎖DNAの損傷を修復します。逆にBRCA1・2の働きを妨げると、二本鎖DNAに傷がついたままになることも確認されています。
 しかし、なぜBRCA1・2の異常が、他のがん種でなく乳がんの素因なのか、その部分のメカニズムはまだよく分かっていません。
 「BRCA1・2に異常がある人は、体のすべての細胞に遺伝子変異があるわけです。それなのになぜ乳がんだけなのか。BRCA1・2の機能が、特に乳腺で重要なのかもしれません」
 同様に、現在遺伝子検査が行われている大腸がんや網膜芽細胞腫など他のがん種でも、対象の遺伝子が、なぜそれぞれのがん化に関与しているのかは不明とのこと。
 「まだまだ解明すべきことは多いのです」
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原因遺伝子の見つけ方

 遺伝性がんの原因遺伝子を突き止める方法として、30~10年くらい前まで花形だったのが、「リバースジェネティクス」です。原因遺伝子の染色体上の位置を絞り込み、変異を持つ遺伝子を見つけて、その遺伝子の機能を解析するという手法です。三木部長たちも、遺伝性乳がん家系の人の血液を数多く集めて、それらに共通して見られる遺伝子の変異箇所を生物学的解析と計算から導き出し、BRCA1を発見しました。
 ただし、「リバースジェネティクスはやり尽くした感がある」と言います。最近注目されているのは、次世代シークエンサーと呼ばれる機器で、全DNA配列を短時間で丸ごと読み取れます。これを使えばエクソン以外の部分の研究も進めやすいと考えられています。


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