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がん医療を拓く⑩ 肥満は腸内細菌を変え、肝がんにつながる

97-2-1.jpg 肥満は様々ながん、中でも肝がんの発症率を高めることが知られています。そのメカニズムの一端が明らかになりました。カギは、腸内細菌の変化と細胞老化です。

97-2.1.jpg わが国では昔から、B型・C型肝炎ウイルスの持続感染とアルコール摂取が肝がんの主な原因でした。しかしこの10年でウイルス陰性の肝がんが倍増。アルコールの消費量に大きな変化は見られず、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)がリスク要因として注目を高めています。

 従来のいわゆるアルコール性脂肪肝は、肝臓の処理能力以上にアルコールが運び込まれて中性脂肪という形でストックされてしまったもの。それでもなお飲酒を続けると、肝炎を含むアルコール性肝障害を発症します。これに対しNASHでは、過度の飲酒がないのに脂肪肝から重度の炎症が起きるもので、肥満や2型糖尿病に伴って発症することが分かっています。

 こうした背景の中、過体重・肥満と肝がんの関係は各所で調査・研究されてきました。疫学的観点と生物学的観点の両面から、日本人では肥満・過体重が原発性肝がんのリスクを上昇させるのは「ほぼ確実」と結論づけているレビューもあります。

 ただ、肥満から肝がん発症までのメカニズムは、ほとんど分からないままでした。今回、がん研究会がん研究所がん生物部の大谷直子主任研究員と原英二部長らの研究グループが、その一端を明らかにしたのです。
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細胞老化が大発生

 原英二部長らの研究は、前々回ご紹介しました。細胞の分裂・増殖が停止してしまう「細胞老化」という現象があり、がん抑制機構として考えられてきたけれども、細胞老化した細胞が長年蓄積すると炎症性サイトカインが分泌される「SASP」という現象が生じ、がん促進に働くようになる、というものでした。

 大谷主任研究員らは肥満に伴う発がんにも、この細胞老化が関与しているのではないかと考えました。

 そこで、マウスを低濃度の発がん物質(変異により発がん活性を持つようになる「Ras遺伝子」に活性型変異を与えるもの)で処理した後、普通食と高脂肪食にグループ分けして様子を見ました。30週間後、前者は肥満せず95%はがんが生じなかったのに対して、後者はすべてのマウスが肥満し、肝臓に細胞老化が起きると同時に100%肝がんを発症したのです。

 肥満マウスの肝臓の細胞に、何が起きているのか。大谷研究員らは、細胞老化とSASP、それぞれに特徴的なマーカータンパク質を抗原とした抗体で蛍光染色を施しました。すると、肝実質細胞(肝臓に固有かつ主要な機能を担う細胞)と毛細血管の間を埋めている細胞の一種、「肝星細胞」が、細胞老化を起こし、炎症性サイトカインなどを分泌していることが確認されました。この炎症性サイトカインの遺伝子を欠損させたマウスでは、肥満による肝がんの発症率が著しく低下することも突き止められました。

 要するに、肥満したマウスでは、肝星細胞が細胞老化を起こし、そこから分泌されたSASP因子が、隣接する肝実質細胞のがん化を促進していたのです。

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