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がん医療を拓く⑮ 口内をケアして治療効果アップ


これぞ文字通り、口は禍の元

107_発症頻度.jpg がん治療の合併症として最も多く見られるのは、口内炎です。口内炎と言っても、日常的に経験する数ミリ程度の可愛らしいものとは訳が違います。粘膜や舌を覆うように拡がり、耐え難い痛みに苦しむ患者も少なくありません。厳密には、通常の口内炎と区別して「口腔粘膜炎」と呼ばれます。

 抗がん剤による副作用の場合、唇や頬の内側あるいは舌など、よく動かす粘膜にできます。多くの抗がん剤が細胞増殖の盛んな細胞を標的とするため、新陳代謝の活発な若い人の方が症状は強く出がちです。薬剤の種類によってもできやすさは違いますが、一過性で3~4週間経つと粘膜が再生し治癒します。

 放射線の副作用の場合は、放射線が当たった口の中の粘膜はすべて口内炎になってしまいます。つまり発生率100%。さらに厄介なのは、歯科治療で歯に金属が被せてあったりした場合です。放射線が散乱して粘膜に当たる量が増え、口内炎が重症化してしまうため、照射の仕方に工夫が必要になったり、場合によっては金属の被せ物を事前に外してしまったりすることもあるそうです。

 抗がん剤と放射線いずれによる場合も、直後よりも1週間を過ぎた辺りから口内炎が出始め、二次感染の危険も高くなります。上皮組織は、一番深い所から順次表面へ細胞が移動し、最表面からはがれ落ちて新しい細胞に置き換わります。ダメージを受けた上皮最深部の細胞が表面に移動してきて、粘膜にびらんや潰瘍が生じて痛みが出るのが、いわゆる口内炎。その間、10日前後かかるのです。

 残念ながら、がん治療による口内炎は予防できません。発症してしまったら、口内を清潔に保ち、保湿し、痛みを取り去る治療が行われます。食事が困難になった場合には、一時的に胃瘻が取り着けられることもあります。
107_がん_口内炎の経過図.jpg

乾燥も深刻

 口内の乾燥も深刻な問題です。抗がん剤や放射線が唾液を分泌する細胞にダメージを与えてしまうのです。食べ物は飲み込みづらくなり、口内炎の痛みも強まります。特に放射線が唾液腺に当たって傷害され、回復不能になれば、うがいや保湿剤によるケアをずっと続けていかねばなりません。頭頸部がんなど、部位によっては、これが避けられないこともあります。

 唾液は抗菌成分を含み、口の中を洗う作用がありますから、ただでさえ体力が落ち、抵抗力が落ちているところに唾液の減少が続けば、口の中のバイ菌も一気に増えます。カンジタ(カビの一種)やヘルペス等のウイルスに二次感染しやすくなります。もちろん、むし歯や歯周病も悪化します。

 感染は口の中に留まりません。知らず知らずのうちに細菌が気管から肺に入って誤嚥性肺炎、口内炎や歯周炎などの炎症部分から血液に入って敗血症など、全身で生命に関わる症状をひき起こすこともあります。

 外科手術の際にもトラブルが生じ得ます。全身麻酔の際には、人工呼吸のための管を口から喉を通して気管の中に挿入します。歯周病などでグラグラになっていると、ちょっとの力で歯が抜けてしまうことがあります。管を伝った唾液に混じった歯周病菌などでは誤嚥性肺炎が起きます。

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