文字の大きさ

過去記事検索

情報はすべてロハス・メディカル本誌発行時点のものを掲載しております。
特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

がん医療を拓く⑰ 放射線皮膚炎を緩和 乳がん治療用肌着


なぜか なかった製品カテゴリー

 放射線皮膚炎は、多くの患者が通る道です。それなのに専用の肌着が今までなかったということ自体、驚きかもしれませんね。

 「そんなニーズがあるということに、メーカーは全く気づいていなかったんです」と話すのは、がん研究会の内海潤・知財戦略担当部長です。かつて東レの研究部門に在籍したことがあり、大学勤務などを経て2年前から現職です。

 小口部長から相談を受けた内海部長は、「これは産学連携で開発すべき」と直ちに元上司に依頼し、同社で小口部長と後藤志保・がん看護専門看護師が直接プレゼンテーションする場を設定しました。

 「2人の話を聴くうちに、東レの人たちの目の色が変わっていくのが分かりました。昨年5月のプレゼン後すぐに特別チームが組まれ、10月には生地サンプルが届き、12月には試作品第1号が出ました」

 両組織の経営陣からも応援メッセージが届けられ、積極的な後押しが行われました。

 試作品第1号の段階で、東レの新技術によって既に軟膏や浸出液の浸み出しの問題は克服されていましたが、さらに細かく改良が加えられます。

 活躍したのが、後藤看護師です。4年前から放射線治療部専属となって、放射線皮膚炎の患者に毎日寄り添ってきました。試作品について、看護師のほか女性技師など放射線治療に携わる他の医療スタッフにも意見を求め、取りまとめて東レ側に伝えました。例えば、治療の影響で腕が上がりにくい場合や、指の皮膚や爪に治療の影響が出ている場合も考え、スナップボタンの位置や数を調整してほしいといった要望です。

 「患者用であると同時に女性用の肌着でもありますから、女性の視点からも細かな改良を加えました。東レも特別チーム6名のうち2名が女性だったので、理解があり、大変スムーズに進みました」と後藤看護師。「最低限の機能を備えるだけでなく、肌着らしい着心地やデザインなど、『もっとこうだったらいいね』と言ったことを実現してもらえました」
109-2.3.jpg
異例の早さで実現

109-2.4.jpg 企業がゼロから新規商品を開発する場合、形になるまで早くても数年はかかるのが普通です。それが今回のケアウェアは、初顔合わせから1年あまりの今年7月、試作品第2号を日本乳癌学会で発表するまで漕ぎ着けました。

 「今ある素材や技術でできることを追求し、ベストでなくベターをめざしたのがよかったんでしょうね」と、小口部長は経緯を振り返ります。

 後藤看護師が現場の声を直接取りまとめてフィードバックできたことも効率的でした。企業単独の事業なら、協力医療機関探しから始まり、大変な時間と費用がかかります。

 さらにがん研に、特許取得や企業連携を取り仕切る知財戦略の専任担当者がいたことも、円滑な共同開発を後押ししたと考えられます。内海部長は、「一般に大学や病院は、企業ときちんと契約を結ぶことへの理解や特許出願への対応が十分でないために、連携作業が滞りがち」と話します。

 これらの好条件が連動して「乳がん患者専用のケアウェア」という、世界的に見ても、ありそうでなかった製品カテゴリーが誕生しました。これを皮切りに、様々ながん種や他の疾病についても、ケアウェア開発が進みそうです。

  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
掲載号別アーカイブ