逆鱗(ゲキリン)~不在のポスト~その3

投稿者: 真木魔愛 | 投稿日時: 2006年09月27日 22:55

その2で、途中でしたので続きです。

耳の奥に怒鳴り声が響き、じわじわと惨めさもこみあげてきて、「もう辞めたい」本音も脳裏を掠めました。

でも、院長は追い出した直後から、ミスターMさんを通じて私を院長室に呼び出し、
院長の出身大学の躰道部合宿に一緒に差し入れをもって陣中見舞いに行きました。
(その日の午後になって、突然理由も言わず、「これから東北地方まで日帰りできるか」と・・・)
往復車中10時間、喜色満面で学生時代の昔話や、故郷のこと、研修医時代の恋愛など、ひたすら話し続ける院長は、私には異様でさえありました。
(おそらく話し相手は誰でも良かったのでしょう・・)

結果的には翌年春から共に秘書室を切り盛りするようになる新人秘書を採用するために、拓大と国士館の夏の躰道部合同合宿に参加したり、総務課に異動直後から毎日のように、直接指示が飛びました。

夏の暑い時期、産業医などで外に出ることがあると、ミニストップのソフトクリーム(種類はベルギーチョコはまだなくて、バニラと決まっている)を総務課に差し入れてくれました。
ほとんど溶けたソフトクリームを食べるのは至難の業でした。
コンビニ愛好家の院長ですが、ソフトクリームだけはミニストップと決まっていました。

院長夫人が前代未聞だといった、職員との観劇も実現しました。
院長が所属する異業種交流会が、ピアニスト稲本響さんの応援をしていて、いつもコンサートのチケットを10枚単位で購入するのですが、実際に行ったことはありませんでした。

そのときの『海の上のピアニスト』は、当日になって突然「行く」と言い出しました。
院長自身と夫人と看護部長は絶対最優先で、他の7名のメンバーを即日決めました。
(院長夫人からは、その為のお洋服を用意していないのにと、えらく当たられましたが・・・んなこと言ったって・・・)
お弁当、マイクロバスの手配、終了後のお茶の場所、運転手の食事など、結局10人目に入れてもらった代償に、院長から万札を数枚渡されて、横にいてお勘定などの秘書役をやる羽目になりました。

この『海の上のピアニスト』は今思い出しても感動的でした。
市村正親さんは、昔船に乗っていたトランペッターを演じ、
このトランペッターが物語の語り手でした。
舞台は市村正親さんの芝居と稲本響さんのピアノによって進行します。

ピアノ演奏も素晴らしく、終了後、隣の院長は立ち上がって「ブラボー」を連呼して、
いつまでもカーテンコールをおくりつづけました。

これもまた私にとっては一種異様な光景でした。

つづく

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