峯直法さんインタビュー

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2007年07月03日 00:06

明日(4日)朝のNHK総合「おはよう日本」で
骨髄バンク制度やドナー登録制度について特集があり
そこで峯直法さんという方が
骨髄移植経験者として登場するそうです。


実は峯さんとは
3月に別件でお目にかかりインタビューしていたのですが
公開する場のないまま記事がお蔵入りしておりました。
ちょうど良い機会なので公開いたします。
明日の放送もぜひ皆様ご覧ください。


~ 院内患者会があれば、医療者も助かるはず ~

院内患者会世話人連絡協議会 峯直法副会長


――峯さんは、田中(祐次)先生と一緒に『院内患者会世話人連絡協議会』を立ち上げたそうですね。峯さんは、どういったご病気で?


 私は、平成16年1月に悪性リンパ腫と診断され、初発治療で寛解になったものの、その後再発したため平成17年秋に骨髄のミニ移植を受け、回復して現在に至っています。移植ドナーにドタキャンされたといった個人的な闘病の経緯は、『悪性リンパ腫なんて怖くない』(文芸社)という本を出版しましたので、そちらもご覧ください。


――なるほど。ところで、院内患者会とは、どういうものですか。


 一般的な患者会は、疾病ごとに広い地域の患者さんやご家族が集まって、情報交換したり社会に働きかけたりするものですが、院内患者会は病院ごとに存在します。主な役割は、現役の患者さんと元患者、医療スタッフとが一堂に会する場として、「おしゃべり会」を開くことです。


 がんの宣告を受けると非常に大きな衝撃を受けます。絶望感とか、自責の念とか、無力感、疎外感、孤独感、いろいろな思いが交錯します。こういう思いを抱えているのは、病気の治療にとっても良い影響を与えません。その思いを誰かに話すことができたら随分と状況が変わるものです。自分だけではない、全国に、同じ病院に、同じ病気と闘っている仲間がいると知るだけで、元気・勇気・パワーをもらえて、前向きな気持ちを取り戻せるものなのです。私自身が闘病中に、悪性リンパ腫患者会の「グループ・ネクサス」の主催するお茶会に参加させてもらって、強く実感しました。


 特に血液がんの場合、闘病期間が長くなります。短くても数ヵ月、何年もかかることが珍しくありません。そうすると、どうしても精神的に浮き沈みが出てきます。入院中なら、まだ身近に医療者がいますけれど、外来になってしまうと悩みを話せる人が身近にいなくなってしまいます。人間おしゃべりしないとダメで、実際に仲間と会って、元気・勇気・パワーのもらいっこをするのが非常に大事です。自分の殻にこもったら良くなるものも良くならないと思います。そのために実際に集まれる場が必要なのです。


――なぜ病院ごとに患者会が必要なのですか?


 医療者にも参加してもらって、一緒におしゃべりすることを想定しているからです。そうすればスタッフも患者も一体になれますよね。そもそも、血液がんの治療にはリスクがありますから、患者と医療者が「戦友」となって、患者が前向きに治療に取り組むことが大切だと思うのです。その病院で治療を受けた先輩を知ることで、患者の知識もQOLも上がり、前向きになれます。


――現役患者のメリットは分かるのですが、先輩患者にどういうメリットがあるのですか。集まってくれますか?


 物理的というか情報を得るメリットはないかもしれません。でも私もそうですが、人間誰かの役に立ちたいという気持ちは元々あると思いますし、その気持ちが闘病を経て強くなります。発病から社会復帰までの間に様々な方のお世話になり、支えられて現在の自分があるんですね。そのお世話になったことを還元したい。みんなにハッピーになってもらいたい。経験談を話すことによって元気をつけることに寄与したい、そういう気持ちになるんです。そして、そういう前向きな気持ちで日々生きていくことが、二度と病に負けない原動力になる気がします。


――なるほど。では医療者は参加してくれますか。


 実は院内患者会ができた病院で、一番喜んでいるのが看護師さんかもしれません。病棟ナースだと、入院中は24時間、戦友のように患者とお付き合いがあるのに、退院してしまうと途端に接点がなくなるんですね。外来の時に病棟まで上がってきてくれる人ばかりではないから、自分たちの看護が正しかったのか分からない。元気になった患者さんと会えば、自分たちのしてきたことは誤りでなかったと医療スタッフもまた元気をもらえるのです。実際にも、医療者にも参加していただいている患者会が多いですよ。


――医療者にもメリットがあるわけですね。


 そうです。院内患者会の先駆け的な存在は、富山県立中央病院の「すずらん会」と金沢大病院の「萌えの会」で、どちらも北陸地方にあるのですけれど、医療者側が主導して作ったと聞いています。手抜きというと言葉は悪いけれど、患者会があれば医師や看護師などの医療スタッフサイドも助かるはずなんです。


――と言いますと。


 患者はですね、本当は主治医に何もかも話をしたいんです。だけど遠慮しちゃう。というのは医師が忙しいのはよく分かるし、それ以上に患者は今自分が置かれている状態より負担が大きくなることは絶対に避けたいものなのです。分かりにくいですか? つまり、主治医に話をすることによって負担が大きくなりたくないので、この話をしたら負担が大きくなるかもしれないと思うようなことは、主治医には中々話せないものなのです。主治医に話をしたらそれで結論が下されてしまいますからね。


 理想は、医師が患者のそういう心境まで汲み取るように親身にコミュニケーションしてくれて、適切な処置をしてくれることだとは思うのですけれど、制度上の問題もあるし限界がありますよね。医師と患者との間に溝ができてしまうのは仕方ないと思います。現在の日本の医療保険制度では、その溝の部分、コミュニケーション不足の部分は、「戦友」が手当てするしかないと思います。田中先生のように、患者と本音でしゃべる医師ばかりなら、こういう必要はないのかもしれませんけれど、田中先生のような人は本当に珍しいですよ。むしろ会話しない、データしか見ないという医師の方が多いんじゃないですか。


--田中先生が主治医だったのですか。


 いえ、田中先生が主宰する「ももの木」には移植患者が大勢参加しているんです。それで移植後に誘われて「ももの木」に参加したのが、一緒に活動するようになったきっかけです。


――ところで、院内患者会世話人連絡協議会というのは一体何ですか。


 院内患者会というのは実にすばらしいものなので、全国の一人でも多くの患者さんがその恩恵に浴して欲しいと思っています。だから全国に輪を広げようと田中先生と意見が一致しまして、そのためには設立マニュアルが必要だということになりました。

 
 マニュアルを作るからには机上の空論を書いても仕方ないわけで、先行事事例を踏まえて実情に即したものにしようということで、全国の患者会の方々に問い合わせをしたんです。そうしたら、それぞれ苦労・悩みはあるもので、皆さんが他の患者会の様子を知りたがるのです。だったら情報交換のための団体を作ってしまえばいいじゃないか、と。世の中に広めていくために、まとまっていた方が都合がよいというのもあります。


――なぜマニュアルが必要だ、と?


 院内患者会がまだ少ない理由は、病院側の協力を得るのが難しいからです。というのも、きちんと説明しないと、圧力団体になるのでないかと警戒されて聞く耳を持ってもらえなくなってしまうのです。説明すると言っても、医療者は忙しいし、事務方は基本的に文書ベースで仕事している人たちですから、どちらも口頭では全然ラチがあかない。きちんと文書を作って読んでもらう必要があります。でも、そうなると普通の患者さんにはハードルが高くなってしまいますよね。


 だから患者さんが実際に患者会を立ち上げようと思った時、必要になりそうな文書の雛形も全部載せたマニュアルが必要だと考えたのです。先行事例を踏まえた痒いところに手の届くようなものになっているはずなので、きっと役に立つと思います。


――なるほど、今後の課題は何ですか。


 患者(家族)サイドはもちろん医療者側にも、とにかくマニュアルの存在を広く知っていただいて院内患者会の必要性や重要性などをよく理解していただくことと、活用していただくことに尽きると思います。このためマスコミを含めて色々なチャンネルを活用して周知啓発していきたいと思いますのでご協力のほどよろしくお願いします。

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コメント

川口様。明日、朝のテレビ報道の件、ご案内いただき誠に有り難うございました。
 また、3月に取材いただいた「院内患者会」に関するインタビュー記事の掲載、本当に有り難うございました。心から御礼申し上げます。

 さてさて、前段の骨髄バンクやドナー制度に関する特集ですが、
放送側の問題意識は、
①骨髄バンクやドナー制度は、同種骨髄移植術でしか生きながられない難治性の血液疾患患者にとって極めて重要であり、必要なもの。
②骨髄バンクへのドナー登録者は関係者の努力と理解によって、現在、28万人を超え、悲願とする30万人体勢まであと僅かのところまできたものの、近年、実際に適合する患者が現れたときに提供を辞退するドナー登録者が増加傾向にあるが、当該制度の設置・運営趣旨等から見た場合、このようなことはできるだけ少なくしていくように改善を図ることが大事。
③今回の取材・報道は、このためには何が必要なのか、どのように改善していけば良いのかを国民全体で考える契機としたい。
といったところに集約されるものと思われます。

 自分も2年前の秋にバンクを介してドナーさんを得て骨髄移植術を施行した「レシピエント」の立場から取材を受けたものです。カメラは約2時間回っていました。

 最終的にどのように編集・放送されるかは判然といたしませんが、骨髄バンクやドナー制度などに関する国民の皆様がたの理解の促進が図られ、当該制度の健全でより良き発展に繋がっていくような内容のものであることを大いに期待し、願っている次第です。
 ご都合がつく方には、ぜひともごらんいただければ幸いです。

 また、後段の「院内患者会」については川口様がインタビュー記事におまとめいただいたとおりですが、設立マニュアルも有効に活用いただいて、多くの病院で院内患者会の立ち上げとおしゃべり会の開催が進んでいくことを祈念いたしているところですし、求めがあればご支援のための活動をしたいと考えていますので、ご連絡いただければ幸いです。

>直君様
ご丁寧にありがとうございます。
番組を拝見いたしました。
なかなか考えさせられました。
バンクの問題に矮小化しないで
社会全体のあり方として考えるべきかなと感じました。

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