臨床研修検討会2(1)

投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2008年10月16日 20:02

厚生労働省と文部科学省が合同で開いている
『臨床研修制度のあり方等に関する検討会』の第二回会議が開催された。
委員名簿は、こちら
資料も こちら
先日の後期研修班会議で珍答弁を繰り返した日本医師会の飯沼常任理事
それから国立病院機構の矢崎理事長の2人が欠席。


矢崎理事長は臨床研修制度誕生の立役者だけに
前回は一言も発言をせず
そして今回また欠席したことに意図を感じざるを得ない。


この日は地方の大学病院を代表する立場の3人からヒアリング
その後で討論という議事次第。
3人からすると噛みつくはずの矢崎理事長に逃げられた感じかもしれない。
それはそれとして、この日の討論も白熱して面白かった。
特に注釈を加えず、どんどんご報告していく。


最初の発表者は今井浩三・札幌医大学長理事長。
「学長の立場、そして病院を経営する立場でお話をさせていただく。札幌医大の理念は、最高レベルの医科大学をめざしますということであり、そのために、人間性豊かな医療人の育成に努めます、道民の皆様に対する医療サービスの向上に邁進します、国際的先端的な研究を進めますという3つを謳っている。

最後の研究に関して言うと、文部科学省の科学研究補助金の教員1人あたり配分額を見てみると、札幌医大は13位。全国の公立の医大は8校あって12位に京都府立医大、14位に横浜市立大と3校並んでいる。それから38位に大阪市立大、39位に名古屋市立大、40位に奈良県立医大があり、上位50校の中に6校の公立大が入っているということと、札幌医大は研究面でもトップレベルにあるということを言いたい。

最も重要な教育についても、地域医療に焦点を当ててたくさんの文部科学省GPに応募しており採択もされている。それによって実習を次々に行っている。6年間に医学部だけで4回の実習があり、さらに看護師を養成している保健医療学部と合同の実習も1つある。この合同実習は重要な柱として、私も一緒に行って年に2回に分けて行っている。地域の皆さんのニーズを知ることによって地域医療をめざす人が増える狙いだ。

しかしながら、そういうことをしていても昨年市立根室病院で内科医がいなくなったり、5カ所で診療体制縮小が起きている。なぜそうなったのかと言えば、臨床研修制度で大学に人材が足りなくなったというのが大きな要因であることは間違いない。そのことをデータでお示ししたい。たとえば市立根室病院では、平成18年11月に11人の常勤医がいたのに5カ月後には3人になってしまった。札幌医大でも何とか支援しなければいけないということで、現在少し持ち直している。

札幌医大の初期研修医数の推移を見ると、平成16年度から70人→58人→50人→36人→47人と徐々に減っている。それ以上に問題なのは後期研修医が平成12年度の106人→97人→97人→77人と来ていたものが平成16年度と17年度は0、18年度から78人→77人→71人になって、2年間0だった。これが悪い状態を作る原因になって、地域へ送り出す医師の順繰りがうまくつかなくなった。

札幌医大には、いわゆる医局は存在しない。廃止した。で、平成16年度から医師の派遣要請に対しては窓口を一本化して大学全体で行うことになった。その派遣人数を見てみると、平成16年度には派遣可な医師が427人いたのだけれど、その後344人→331人→318人と減っている。結果として新しい所にはほとんど出せていない。その分、教官や大学院生が非常勤として出て行っている。教員は1人月に28.5時間、それ以外は7.4日外にいる。過剰な労働になって、だんだん問題が出てきており、この辺がギリギリ限界だと思う。

まとめると、大学に人がいないのは本当。引き金は臨床研修制度。何しろ北海道から2年間で600人の医師が消えたことになる。何とかしようという努力は色々な角度からやっているけれど、それだけではどうにもならない。最後にささやかな個人的提案をしたい。現状に照らして臨床研修をゼロにするのは現実的でないと思うので、現在「自由選択」になっている2年目の後ろ8か月を地域医療もしくは総合医療なものにして地域に出て行ってもらったらどうか。研修にも役立つし地元の患者のためにもなる」


この発表の途中で参院予算委員会を終えた両大臣が到着。
まず塩谷文部科学大臣
「大変大きな問題であり、舛添大臣が熱心に取り組んでいる。最初は渡海大臣、1回目の会議が鈴木大臣、2回目が私と次々にメンバーが代わっているが、舛添大臣に常にリードしていただいている。ぜひとも十分な議論のうえ結論をいただきたい。産科、小児科をはじめ地域医療に深刻な状態をもたらしている。それを何とかするためにも大学病院を応援していかなきゃならんと思っている。実は私、河村官房長官と一緒に大学病院を考える議連の会長代行をしていて、前々から臨床研修制度には検討すべき点が多いと思っていた。能力、志ともに高い医師を育てるのが大学病院の役目であり、また地域医療を支える最後の砦でもある。臨床研修制度を始めればどうなるか、最初から予想できたのでないかと思うのだが、当然見直しということを含めて積極的に議論いただいてできるだけ早い機会に結論をいただきたいと期待している」


明らかに前任者よりも制度見直しに前のめりだ。
矢崎理事長が欠席したくなるのも分かる気がした。
続いて舛添大臣
「今、文部科学大臣から話があったように、内閣は変わったけれど、麻生内閣でも両大臣のもとでこの検討会を実施していく。ビジョン会議、そのメンバーもいるが、重点的なポイントとして、新しい臨床研修制度が地域医療の崩壊に拍車をかけたことは今データでお示しくださった通りだと思う。卒前と卒後で重複して無駄じゃないかという声もあった。だからこうして両大臣のもとでやっている。1人の医師を養成するには、厚生労働省だけでも文部科学省だけでもできないから。今、今井先生から2年間の後ろ9カ月を地域医療枠にするという提案があって、いいアイデアだなと思った。それに関連するのだが、卒前卒後の重複を考えたら、思い切って2年を1年に縮めたらどうだろうか。医師養成数の1.5倍増をすると言っても、大臣バカを言っちゃいけない、育ってくるのは10年後じゃないか、もっと目の前にできることをしろと言われる。そういうことを予算委員会でもさんざん指摘されてきた。2年を1年にすれば単純にいって8000人医師が増えることになって即効性があるんでないか。もちろんプラスマイナスあると思うので、この案について重点的にご議論いただけないだろうか。

それからもう一度確認しておきたいのは、臨床研修制度が悪いということではなくて、全体のレベルアップは果たされ、専門しか診られないというような弊害は改善されたと思う。私の隣に国民代表たる大熊委員がいらして、研修医に逃げられる病院の方もしっかりしなさいという話だった。この点についても活発な忌憚のないご議論をいただきたい。例えば医師が一人前になるところで、プライマリーケアはどの段階でやるべきだろうか。両大臣に遠慮は要らない。自由にご意見をちょうだいしたい。

こういう政局ではあるが、どういう内閣になっても、どういう政党の政権になっても、この問題は国民代表としてやらなければならない改革である。一刻も早く方向性を示すことが国民にとっても重要であろう。何とか年内ぐらいに何らかの中間報告をいただけたらと思う。総選挙がいつあるのかは麻生総理とお話をしても私にもサッパリ分からない。それを気にせずやるしかない。今朝の読売新聞朝刊に計画的な医師派遣の提案が載っていたけれど、そういう規制強化がいいのか、いやいやそんなんだったら医師やめるよと言われたらそれまでなんで、一つの新聞社の考え方ではあるが、こういうことにもご反論いただいたり、ご議論いただければと思う」


発表に戻って冨田勝郎・金沢大学病院長
「頭の中では、このことばかり考えてきたし、今も考えている。舛添大臣の問いに対しても即答できるけれど、まずは自分の任務を果たしたい。といっても、北陸の惨状を訴えに来たつもりはない。日本の医療をどうしたら良いかその答えを持ってきたつもりだ。臨床研修制度が、現在の混乱を招いたことは議論の余地がない。この制度がいいと言った大学病院長に会ったことがない。ここに3人呼んでいただいたということは、行政も地域医療立て直しには大学がキーとなって支えないといかんと理解していただいているのだろう。そこで述べたい。

臨床研修制度の根源にあったのは、大学病院の医局制度の良さを適正に評価せず崩壊を図ったこと、これだと思う。皆さん認めるのは苦しいかもしれないが、これが事実だと思う。大学の医局制度は日本が150年かけて木が枝を伸ばすように試行錯誤しつつ築いてきた『資本主義と社会主義の中庸をいく』すばらしいシステムである。たしかに山崎豊子さんに書かれた白い巨塔のような問題点も一部にあったが、そのような問題点は修正していけばいい。皆さんそういう知恵は持っていると思う。

日本では大学病院が軸となって『医の心、倫理観』を大切にし、金の事を考えずに一番よい治療を行うというような拝金主義・市場原理主義に偏らない真の医療を追求・実行・教育することを許されてきたし地域医療を支えてきた。現在の研修医は、症例の数を競って、何をさせてもらったかを競う。それは大きな間違い。患者さんにそんなことを言っちゃいかん。1人を徹底的に見て最良の医療をすること、それこそが大切。数じゃないし、させてもらうということでもない。それから地域医療に若い医者を回せばいいだなんて、とんでもない。私は地域の出身だが、地域の人間にしたら、こんな失礼な話はない。私は家族をそんな危なっかしい医者に診てもらいたくない。なぜそんなドクターを地域に回そうという話になるのか、悲しい。経験豊富な医師かリタイアした医師、もしくは中堅の医師が欧米の医師がアフリカへ行っているように年の3分の1はボランティアをするような、そんな風にして担うべき。若い医師というけれど、そんなのが東京のここに来て、東京も地域だとするならば、それでいいのか。憤りさえ感じる。

以前なら大学病院では経営のことなど考えずに何が最もよい治療か叩きこんだものだ。その後で一般の病院に出て行ったなら経営を考えながらやることも必要だろう。しかし今は、大学病院まで一般の病院と同じように競争させているから拝金主義になって地域医療の崩壊につながっている。大学病院は教育・診療・研究が仕事。研究を行うからこそ新しい医療が次々に実行される。逆に医療はリニューアルしていかないといけない。医師が年いったから古い医療で構わないなどという患者はいない。その患者の要求に応えるためには、医師は障害学び続けないといけない。その生涯教育をやっていくのも大学病院が常にリードしていかないといけない。

大学病院をしっかり立て直せば、つまり医局をしっかり支えていく体制に戻せば、地域医療もしっかりする。大学病院を他の病院と競争させるから地域医療がおかしくなってくる。

実は明るい兆しが見えている。ことしの7月だったか8月だったか、驚くべきことが厚生労働省から発表された。正式名称は忘れたが臨床研修に『大学病院専門医型特別コース』というものを設けるという。しかし足りないのは、産科、小児科、麻酔科、救急だけでない。これを全科に適用・推進させていくことによって、既に目標を定めている研修医は安心して研修に励める。実際問題ほとんどの研修医は医学部6年の間に進む方向性を決めているし選ばなければならない。6年の直後に決めなければダラーンとしてしまう。卒後にさらにベッドサイドちーちんぐを繰り返すような無駄なことになる。研修医も8割方はどのコースを選ぶか決めている。特別コースに入れば、実質的に研修を1年短縮したことになる。最初の1年でプライマリケアの基本的なことをやって、2年目は自分のめざした科を回ればいい。このようにしてもらえば、大学病院としても自分の科に来たのと同様の教育ができる。このようなことを言うのは、今、一般の病院では研修医に対するゴマスリが行われている。評判を良くしてもらってどんどん研修医が集まればいいと。だから、症例の数や種類という話になる。1人の患者を診ても10の病気を勉強することはできる。これが本当の教育であり、特別コースが標準になれば専門科との一貫教育の流れができて、大学病院の定着率も元通りになる。

大学病院は教育・診療・研究の三本柱が使命と言われてきたが、そこに改めて地域医療を支えるということもやっているんだと、行政にも認識していただくべきでないか。先ほど舛添大臣が『即効性』とおっしゃった。8月に出されたプランを4月から全科に適用すれば、すぐにグングン立ち直っていくと私は確信している」


と、ここで前の発表者である今井学長が手を挙げた。
「今、地域に未熟な人が行くかのような発言がなされたけれど、そうではないので一言。当然のことながら、研修医が行くからには指導医もいて、きちんとした医療が行われる。地域が大事なのは、北海道にいる私が誰よりも分かっている」


最後の発表者は河野茂・長崎大医学部長。
「先ほど日本で150年かけてというお話があったが、本学は創立150年。西洋医学発祥の地であり、また原爆ですべて壊滅したところから立ち直って頑張っている。長崎県も五島や対馬の離島を持ち、五島には教授が張り付いて実習を行っている。毎年、ほかの大学からも30人程度の実習を受け入れている。このように頑張っているんだけれど、という話をしたい。

長崎大学病院のマッチング結果だ。平成17年度をピークにどんどん下がっている。これは何も大学病院に限った話だけではなく、県内の病院でも同じ傾向だ。魅力的なプログラムがないという批判の声はあるが、何とか魅力的なものと佐賀県と共同でプログラムをつくって新しいGPも獲得したが、しかしこの低落傾向を変えられない。大学の入局者も臨床研修開始前は90人近くいたのに、このままだと平成22年には39人になる。診療科を見ても、ローテートで回ることになっている小児、産婦人科、麻酔科、精神神経科が軒並み減っていて、要するに回ってもそこをめざす人はかえって激減している。その結果として、長崎の医師の資質が劣るわけではないけれど、乳児死亡率は全国ワースト4位、新生児死亡率もワースト5位だ。これは何かというと、NICUに勤務する医師が足りないということ。明らかにデータとして出ている。

地元の出身者なら長崎に残るのかというと、これがそうでもない。結構、福岡へ行ったり、もっと遠くへ行ってしまったりする。なんでかというと、現在の研修制度だと地方にずっといる人間に『地方を離れてみたい、一度は都会に出てみたい』という気持ちをわざわざ呼び起こしているようなものだから。このように研修医と入局者が減った結果、当然の結果として多くの病院について派遣人数の削減を行うことになった。

では、どうすべきか。まず入学定数が必要だ。長崎大はMAX120まであった。来年は増やして105。MAXがもっと必要だ。県外に流出してしまって地域の不足に悩むようなところには入口から広くしてほしい。それから、たとえばカナダでも90年代にマッチングが行われたが、今の日本と同じような医師の偏在が起き1年で廃止になって、現在は定数と参加者が一致している。大学でプログラムを組み一般病院も含まれる形になっている。今の日本は講義の時間に抜けてマッチングの試験を受けに行っている。全国統一期間にしてもらわないと。諸外国では、国全体でマッチング枠を決めて専門性持つ人間を何人育成するかの制度既に持っている。すべて自由というのはありがたいことだけれど、何らかの手を打つ必要はある。自分の希望しないかを回るのは時間のムダという声が強い。全員、満遍なく回す必要があるのか検討は必要だろう。大学病院の従来の良さは経済的なことを考えずに教育できるシステムだったこと。それなのに人が足りないばかりに将来の医療を支える研究を犠牲にして苦闘している」


高久座長
「ひとつ質問だが、長崎大は地域枠を持っていたか」


河野
「昨年からAO入試で5名取っている。定員枠が広がったら、今後20名まで増やしたいという希望を持っているので、新木課長ぜひお願いします」

(この後の討論は次項)

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コメント

新しい研修医養成制度とそれに連動する専門医養成システムは、臨床医の養成を選択の自由と競争原理に基づくものに変更したもの。
要するに、労働条件、卒後教育条件、地域の生活条件を加味して、条件がよく、臨床スキルを磨けて、取得したスキルが生かせて、生活するにも好都合な病院を選択でくるようになった、ごくごく当たり前の制度。

医者に選択されなかった、競争に負けた大学病院と市中病院が、選択の自由も競争原理も否定しはじめたことが、制度の見直しそのもの。
ハッキリ言って臨床医も専門スキルを売る労働者ですからね、労働市場の自由化が是か非かって問われれば、多くの臨床医の出した結論は、見てのとおり・・・

制度設計を後戻りすべきではないと思うが、そもそも負け組の大学病院と市中病院が、競争に勝てるだけの、選択されるだけの内容に乏しかったことが、現状では?なにかご不満でも?

>hot cardiologist先生
コメントありがとうございます。
まだご報告が途中なので
全部終わったところで改めて見解を述べたいと存じます。

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