おしゃべりのチカラ。

投稿者: | 投稿日時: 2009年03月11日 11:14

一昨日、京都府医師会主催の「今の医療、こんなんで委員会」(3月28日開催)について書かせていただきました。 それに対し、シンポジストの山根さんからコメントをいただいたのですが、その中とそれに対する私の返信の中で、“おしゃべり”について触れました。

今日はそれについて、ちょっとだけ話を広げたいと思います。

一昨日のコメント欄では、兵庫県の「県立柏原病院の小児科を守る会」も、最初は「美味しいケーキ屋さん」での“おしゃべり”から始まったと、山根さんが教えてくださいました。それを受けて私も、「リラックスした環境での“おしゃべり”は、堅苦しい「検
討会」なんかよりよっぽど大事な意見が出たりする・・・「意見」というかしこまった形ではなく、“本音トーク”というかたちで」と書きました。

こうして“おしゃべり”のもつ「だいじなことを引き出すチカラ」について、改めて再認識することになったわけですが、それに早くから気づいて、自然に実践・応用している人が身近にいました。ロハス・メディカルでもコラムを持っている血液内科医の田中祐次先生です。


「Medicina Nova」(ラテン語で「進医学」)というコラムで田中先生は日々の活動報告をされていますが、中心の話題は、先生が主宰されている患者会「ももの木」や院内患者会の普及にまつわるエピソードです。そのなかでしばしば出てくるのが、“おしゃべり”のチカラなのです。

田中先生は「患者のための医療」の確立を目指されています。それには患者の本音を引き出すことが重要と考えているのですが、自身の経験を振り返ったとき、その本音が表れるのは何気ない“おしゃべり”の中でだと気づいたというのです。そして”おしゃべり”こそ患者さんたちが求めているものでもあったといいます。それから先生は「おしゃべり会」を広め、普段の診療でも患者さんたちとのおしゃべりに、ますます積極的になったということです。

そしてさらに今、田中先生は学術的なアプローチとしても、堅苦しい意見交換での発言ではなく、患者さん同士のおしゃべりの内容を分析・考察する試みを続けています。そこで患者さんが必要としているものを発見し、実用化のための提案も行っています。


くい止める会では、なかなかこうした「おしゃべり会」というようなものを開催するには至っていませんが、それでも個々の先生方は日々の診療を通じて患者さんに寄り添い、気軽な雰囲気の中で耳を傾けてきています。そんな、人と人としてのふれあいや歩み寄りが、医療崩壊をくい止める大きな原動力になるものと信じています。

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コメント

田中先生のお話、すばらしいですね。
柏原病院小児科を守る会の誕生のエピソードもそうなんですけど、何気ないおしゃべりの中に潜んでいるチカラを引き出し、形のあるものにしていくのには、優れたオブザーバーが必要なんだとおもいます。小児科を守る会であれば、足立記者ですね。そのあたりの詳しい話は、鈴木敦秋「小児救急」(講談社文庫)の巻末に詳しく書かれています。文庫化にともない、東京の「知ろう!小児医療、守ろう!子供たちの会」誕生のお話とともに加筆されました。

足立記者は、地元の柏原病院の危機を取材されているなかで、小児科の問題を記事にしたものの市民の反応がわからず、高校の同窓生やその奥さんに感想を聞いてみようと声をかけたそうです。それがおいしいケーキのお店だったと。
その中に、偶然お子さんが喘息でいつも小児科にお世話になっていて、夜中も患者がいっぱいで、寝ずに診察にあたっている先生たちの姿をよく知っているお母さんがいました。「先生のことが心配で、なにかしたいんや」というそのお母さんの話に、お母さんたちの心が動きました。
足立記者は、医療問題を取材している中で、不満や悩みも、医療者は医療者のなかだけで、患者は患者の中だけで言い合って終わっているのがよくないと考え、自分がその橋渡しと、市民に対して「こんなことになっているよ!」と知らせる役目をしようと決めたのだそうです。
そのお話をきいて、それこそメディアの本来の姿だなと思いました。
そして、このロハス・メディカルの川口さんはじめ、記者の方々も同じことを目指してらっしゃるんだなと。
そういうわけで、今後ともよろしくおねがいします。

>山根さん

いろいろ勉強になります。
「優れたオブザーバー」ですか。そのとおりですね!今、今日のエントリーを書いたところだったのですが、そこで取り上げた問題意識へのひとつの回答になっているように思います。(こちらのコメントを先にチェックさせていただくんでした!)

これから所用で手が離せないので、それについては明日のエントリーでぜひ触れさせていただきたいと思います。宜しくお願い申し上げます。

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