なぜ地方では「たらい回し」が少ないのか。

投稿者: | 投稿日時: 2009年03月21日 10:42

総務省が、昨年の救急搬送に関する調査結果を発表しました。一昨日から昨日にかけて、新聞等でも報道されています。医師不足等からくる救急医療の崩壊については、くい止める会でも大いに危機感を持ち、注目してきました。

重症拒否10回以上903件=「たらい回し」48回も-救急搬送調査 (時事通信)

重症患者の3・6%「たらい回し」…昨年の救急搬送 (読売新聞)

まずは上記の2つの記事をちょっとずつ引用してみると、

●重症患者(入院3週間以上)の3・6%にあたる1万4732人が3回以上断られていた。前年(3・9%)比微減で、「たらい回し」問題は依然、改善されていない。
●医療機関側の拒否理由は、「専門外」が最も多かった小児以外だと、医師不足などによる「処置困難」で22%、「手術や診察中」21%、「ベッド満床」20%の順で多かった。
●地域別では首都圏と近畿圏の大都市部での受け入れ拒否が目立つ。
●受け入れ拒否回数が最多だったのは、東京都内で吐血などの症状を訴えた40歳代の男性で、48回。受け入れ先が決まるまでに要した時間は、大阪府内の事例で3時間42分が最長だった。


こうしてみても、救急医療のおかれている厳しい状況は相変わらずということですが、別に驚くようなことではありません。これまでにさんざん騒がれてきたことですし、医師不足等の根本的問題が解決されていないのですから、その結果の数字だけよくなるなんてことはありえません。

しいていえば、「首都圏や近畿圏の大都市部で問題が深刻化している」という指摘については、いろいろ考えるところもあります。


首都圏大都市と地方の何が違うのか。数字だけを見て、地方のほうが優れた体制を築いている、と考える人はまずいないでしょう。これは私の理解している材料からの推論ですが、地方には救急搬送時に打診して回るだけの病院数がないのではないでしょうか? 

救急搬送というからには、それなりの設備を持った病院を受け入れ先として探すはずです。しかし、その期待が出来るような病院自体(二次救急を担うような中規模救急病院)が、もとより地方にほとんどないのではと想像します。地方では病院を探す余地がなく、1箇所大きなところがダメだったら、あとは近隣の大都市の大病院に打診するしかない。しかも小児や産科などは特殊な設備が必要になり、その傾向は特に強まります。

すると大都市の病院では、地方からの患者も受け入れなければならず、状況の厳しさに拍車がかかることになります。しかも、そもそも大都市には中規模病院がなまじ乱立しているせいで、かたっぱしから打診し、かたっぱしから断られる状況が生まれているように見えます。規模は中程度でも、医師や設備がそのとおりに整っているとは限らない、というのが、現在の医療崩壊の実態そのものだからです。


というわけで、「首都圏や近畿圏の大都市部で問題が深刻化している」と聞くと、「じゃあ地方は大丈夫なのか、地方がOKでなぜ大都市がダメなんだ」とも考えられそうですが、「別に地方がOKということではない」ということは、注意が必要です。そう考えるとやはり、「二次医療圏」という考え方、そのあり方に、無理があって、きちんと機能していない実態も見えてきます。


さて、こうした問題の解決には行政・政治的な対応と、患者側のモラルある受診(コンビニ受診をしない、等)が必須であることは、いろいろなところでいわれているとおりです。

一方、そうした本質的な問題とは別に、私はこれら報道を見て、記事の“書き方”(言葉の問題)として気になった点が主に2つあります。それについては明日、書いてみたいと思います。

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コメント

これは、ご指摘のとおりと思います。

私は、首都圏と地方の小都市で救急医療をしていた経験がありますが、医師の力量に差があるわけではありません。

大都市部の方が防衛医療に走り易い環境にあるからであり、起こっているのは「医療崩壊」と言うよりも「都市システムの崩壊」です。

「都市システムの崩壊」は地方にも起こっています。様相はやや異なりますが。

地方都市でも、古くからの共同体が崩壊しつつあり、限界集落問題とか、新住民と旧住民の間の争いとか、行政が介入することのできない問題が進行して来ています。

ただ、東京は一国家といってもいいような人口規模ですから、「都市システムのほころび」があちこちで出て来ている。救急医療体制のような複雑なシステムは矛盾が目立ちやすいのでしょう。

救急医療システムの崩壊が都市部で目立つのは人間関係の希薄さの反映でしょう。地方都市は、この症状ならどこそこの病院に、という判断を救急隊員が行うし、住民の側も搬送先の病院で不幸な転帰となった場合も、それを受け入れるだけの柔軟さは、まだ残っています。

東京や大阪では、ひょっとすると訴訟になるかもしれない、というケースは現場の医師が躊躇してしまうのだと思います。いったんネガティブ思考にはまり込むと修正が利きにくいのが医療の怖さでもありますので、この点で救急医療に携わっている医師たちを非難する気に私はなれません。

「たらい回し48回」「受け入れ先決定まで3時間42分」の背景にあるものを、ジャーナリストの方々は、もっと追求してほしいです。

>富僧也さん

「都市システムの崩壊」というご指摘、とても示唆に富んでいて参考になります。医療崩壊も、そうして一歩引いた観点から見ると根底に横たわっている問題(それもまた一側面には違いないのですが)が見えてくるのですね。

私も普段から、どんなことを考える場合も視野を狭めないように努めているつもりでしたが、今回のご指摘を受けて、その不十分さをあらためて認識しています。とくに身近にあったり普段接している問題ほど、視野が狭まるものだということを、もっと念頭に置くべきだと実感しました。

もちろん、私一人が医療崩壊を都市システムにまで結びつけたところで(つまり、どんな問題でも視野を広げたからといって)、何かが解決できるわけではないことは自覚しています。それでも、いつもそういう視点を持ち続けたい、きっと自己満足ながら、そう思うのです。と、いうわけで、興味深いコメントをありがとうございました。 

これは、地方の医療機関の場合に選択の余地がなく、自分たちが断ると行き場を失うことを知っているからだと思います。都市部では、自分たちが断っても、ほかにいくつも同様な病院があります。都市部では、受け入れ態勢が即応状況にないと、患者さんから、それなら断れといわれることがあります。選択の余地のない地域なら、そういう患者さんはいらっしゃいませんです。


>せんたくさん

端的なご指摘ありがとうございます。
なるほど。病院側としても、意識も違うのですね。そして同様に、患者さんの意識も違う。いろいろなところで両者が耐えている地方の状況の改善が望まれると同時に、都会の“過ぎたるは及ばざるがごとし”状態について、都会に住む我々自身が認識するところから始めなければと思いました。

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