薬のネット販売規制とその報道に思うこと。

投稿者: | 投稿日時: 2009年04月17日 20:19

今年の6月に、改正薬事法が施行されるのを前に、「大衆薬がインターネットで買えなくなる」という話が昨年からずいぶん騒がれてきました。

発端は、厚生労働省が「薬事法施行規則等の一部を改正する省令」(今年2月公布、厚労省による概要はこちら)に、“対面販売”を基本とする条項を盛り込んだことのようです。薬には多少なりとも副作用が必ずあるものですから、事前に情報提供が確実に行われることを目的としているとのこと。これによって、対面で情報提供できないインターネット販売は「安全性の確保が難しい」として、まっ先に切り捨てられてしまうらしいのです。


しかしこの話題、これまでの流れを振り返っても、なんだか気になる点がぽろぽろと出てきます・・・。

ひとまず、おおまかに要点や流れをまとめると、以下のような感じです。


●大衆薬(処方箋なく買える薬)は副作用リスクで第1~3類に分けられ、リスクの低いビタミン剤等の第3類以外が規制の対象。風邪薬や胃腸薬、はたまた妊娠検査薬など、大衆薬の7割近くが対象となると言われる。
●その根拠は「対面販売による安全税の確保」。
●ただし第2類の薬は、新たに設けた資格を持つ人材(「登録販売者」)を配置すれば、薬剤師がいないコンビニなどでも販売が可能になる。
●日本薬剤師会や薬害被害者団体などが、ネット販売の全面禁止を主張。
●ネット業界や、政府の規制改革会議などは利便性が損なわれるなどとして、販売規制強化の反対を訴えている。
●強い反発を受けて厚労省は検討会を開催。第1回は2月24日で、楽天の三木谷氏らが「今までも認められており、規制は違法。なぜネットばかりいじめるのか」と異論を唱えた(毎日jp)。
●3月26日には、自民党の「医薬品のネット販売に関する議員連盟」が、省令案に則った内容の意見書を提出(医療介護CBニュース)。
●一番最近の動きとしては、三木谷氏らが100万人分の反対署名を甘利行革担当相に提出。これに対し大臣は、「厚労省は一定の経過措置を」 と発言。(産経ニュース、4月14日)


うーん、気になるところ満載。とにかく列挙してみます。

1.対面販売=安全は本当?家族の誰かが本人に指示されるままに薬を買いにいけば、対面もなにもないと思うのですが・・・。しかも、登録販売者を置いただけのコンビニのアルバイト店員から薬を買うことになった場合、そのどこが安全につながるのか、まったくもってわかりません。

2.薬の7割がネットで買えなくなるのは、結構大きなこと。それが省令で簡単に決められてしまうのは強引では?

3.薬剤師会が反対する理由がわかりません!いまや小さな個人薬局も、ネットで漢方薬など売っていますよね。反対は本当に薬剤師会の会員の総意?

4.規制を推進しようとする与党議連がある一方、行革相が反対を擁護するような発言。ちなみにこんな与党議員のブログも→こちら。与党内あるいは政府内でも足並みはバラバラなんですね。・・・省令はますます強引?

5.三木谷氏の発言「ネットばかりいじめる」が強調されるのは逆効果だと思うのだけれど・・・。


1~4の疑問は、私以外のきちんとした識者の方々が指摘していることと、大きく変わらない部分かと思います。とくに3に関連して、今回の規制で一番よくわからないのが、本当は誰のためなんだろう?ということ。薬害は絶対いけないことですが、1でも書いたように、ネット販売が薬害を助長し、対面なら本当に安全かというと、すごく疑問です。「だったらけっきょく誰のためなんだろう?」と思わずにいられません。


また5は、私が報道を眺めていて勝手に思ったこと。
この発言だけが強調されると、なんだか問題の本質が隠れてしまいます。まるで「薬の販売規制はネットに対する嫌がらせ。ずるいよ!」と言っているように聞こえてしまって、そうするとこちらは「なんだ、そういう痴話げんかなの?」としらけてしまいます。

ただ、これはたぶん三木谷氏にとっても不本意なんじゃないかなあ、とも想像します。おそらくそういう発言はあったにせよ、本人としても強調したかったのは、きっとそこではなかっただろうなあ、と。ちょっとした発言ではあったけれど、いかにもマスコミが飛びつきそうな表現ではあります。案の定マスコミに拾われてしまって、そこばかり引用されてしまった。


とはいえ、もし本当にそんな感じだったとしても、不用意な発言だったと言ってしまえばそれまでです。が、それでも、報道する側のモラルもちょっと気になります。「いじめ」という言葉はかなり刺激的、国民のワイドショー的興味をそそる表現ではありますが、数あるであろう発言の中で、そこを引用することが本当に的確だったのでしょうか。ともすると、国民が論点を正しく把握するのを妨げてしまっていないのか・・・。


それとも国民はもっと冷静で賢明でしょうか?私の考えすぎだとよいのですが、いずれにしてもそこは誰も確かめようがありませんね。

<<前の記事:「看護師爪はがし事件」無料動画配信のお知らせ    看護必要度のほんとうのところ。:次の記事>>