看護必要度のほんとうのところ。

投稿者: | 投稿日時: 2009年04月18日 18:13

昨日のニュース記事「地方ではナースの数が足りない」は、

1.看護師が地方病院で足りていない現実を指摘し、
2.その対策として「専門的な看護師を中心とするチーム医療」を推進し、
3.それをDPCの“新しい機能評価係数”を使って評価することで、地方の病院をサポートしよう、
4.という1~3の話が、診療報酬を議論する中医協の小委員会で出ました、

という話だったと思います。・・・と、ここまで、あっているでしょうか?私としてはまだ親しみのない言葉や習いたての用語がちりばめられていたので、読みながら頭の整理でいっぱいいっぱいでした。

なかでも、上記の3について、「重症度・看護必要度の改善率」で評価する、それならば現場の負担がない、ということが強調されていました。が、私はそもそも「看護必要度」がどんなものかわからずにつまずいてしまったので、今日はここを理解しつつ、全体の流れを押さえたいと思います。

まずは昨日のニュース記事を私なりに噛み砕いてみます。


昨今の医師不足に対して、医学部定員の増加が図られることになっていますが、医師が育つまでには形式上6年、実質10年かかると言われます。では今から10年の間、人手不足はどうするのか・・・・。その対策として、先日、診療報酬を議論する中医協小委員会で主張されたのが、「専門的な看護師を中心とするチーム医療」です。

同委員会では、DPC(なんのことやらわからない方は→こちら)導入に必要な設備やスタッフの整備がままならない地方病院の現状(都市部の大病院との格差)が問題とされました。そこでチーム医療をDPCの“新たな機能評価係数”で評価し、地方の病院でもチーム医療を充実させれば評価が得られる=医療収入につながるようにしよう、という主張が展開されました。もちろん、チーム医療は院内感染防止や医療安全につながるという意味でも、推進されてしかるべきものです。


さて、ではそのチーム医療の評価はどうやって行うか。そこで出てきたのが「重症度・看護必要度の改善率」という話。

もともとこれは、やはり診療報酬がらみの話です。一般の入院病棟で、かつては10人の患者を1人の看護師が看ていれば最高点が得られました。それが2006年から患者7人に1人の看護師をつければもっと高い点数が得られることになると、大病院が看護師を大量に確保して地方で看護師不足が生じました。なかにはその基準を満たすためだけに数だけ揃えて内容が伴っていなかったり、逆に必要以上に手厚い看護をしている病院もあり、そうした歪みの是正のために2008年からは「重症度・看護必要度」を測定・報告して、一定の基準を満たすことが求められるようになったというわけです。


それで今回、その改善率をチーム医療の推進具合の評価に使えばいいというのです。すでにDPCの対象となるような病院には、重症度・看護必要度の測定をしている病院が多いので、新たな負担にはならないという点も強調されました。


以上、おさらいおしまい。間違っていたらご指摘をお願いします。
さて、問題は「重症度・看護必要度」が何たるか、まだいまいちつかみきれないことです。


まず、重症度は医師が評価すると考えてよいのでしょうか。また同様に、看護必要度は看護師が患者をみて評価するものでしょうか。点数化するということですから、なにか定められた一覧表みたいなものと照らして項目ごとにチェックをし、足し算して合計を出すような形かと想像します。そういった項目を定めているのは、どこのレベルなのでしょうか。都道府県?国?具体的なイメージがわかないのです。もしくは全然違う方式でしょうか?


いずれにしても一番気になるのは、評価はほんとうに正しくなされるのか、ということ。これは患者の治療とは直接かかわりのない部分の話ですから、たとえ正しくなくても患者に何かマイナス影響が及ぶわけではないんでしょうね。でも、自分の看護必要度とかが自分の知らないところで勝手に点数化されているというのは、患者としたら、ちょっと複雑な気分・・・。せめて正しく評価されて、実際それに見合った治療・看護を受けられるようであってほしいです。

とくに治療よりも、看護のほうがもっと、“人間的な要素”が大きい気がします。もっと上手い言い方が見つからないのですが、つまり、誰の看護を受けるか、どんな看護師さんか、その相性によって、看護を受ける側の看護内容に対する印象まで影響を受けてしまうように思います。ただの印象に過ぎないとしても、病室とそこでのやり取りは入院患者にとって生活そのもの。誰でも気持ちよく療養生活を送りたいですよね。それにはやっぱり“看過”できない問題だと思うのです。


ですから単に病院の収入の問題ということだけでなく、実質的な改善を期待する意味でも、このあたりの議論をより深めていっていただきたいなあと思います。

<<前の記事:薬のネット販売規制とその報道に思うこと。    医業はただのサービス業か否か。:次の記事>>

コメント

 看護必要度については、詳細な教科書が出ています。筒井孝子先生の本なんて、どうでしょう?

私はあまり高邁な話や理論は得意ではないので実体験に基づくところから。

ナースほど人材に幅がある(つまり学歴や能力、態度、姿勢などがピンキリである)医療職種はまずないと思います。

ICUなどの重症病棟では頻繁に患者の死に立ち会うので、人によっては激しい感情労働に晒される毎日です。これは20代そこそこの女性にとっては、結構な心的ストレスだと思います。

不規則な勤務形態、体交、清拭、排便や食事の介助などの仕事の大変さ、医療的なサポート、頼りない主治医との対立、先輩ナースからのいじめ、やりたいこととできることのギャップ等々職務で求められることに対して、給与や待遇、位置付けの面であまり恵まれていないこと。(これを言うと、非常勤のレジデントからは、ナースや技師は正職員で勤務時間も守られている分、自分たちよりましだと言われそうですが)

以上のようなことから、例えば結婚や妊娠を契機に辞めてしまう、また、育児が落ち着いても、現場に戻りたいと思うほど待遇が良くない(例えば私の近所では、ナースの時給が概ね1200円前後で、派遣の医療事務の人よりも安いので、専門職としては、やってられないという気分になるそうです。)ということも、看護師不足の主な原因であるかと思います。

>中村利仁先生

ありがとうございます。医療に看護は欠かせないものですので、もっと勉強させていただかねばと思っています。ちなみに看護必要度の具体的なチェック項目については、例として埼玉県医師会の「重症度・看護必要度に係る評価票」がweb上にあり、参考になりました(http://www.saitama.med.or.jp/hoken/08/a_18.pdf)。

>KHPNさま

看護師の方々の置かれている状況をご説明いただきありがとうございます。

労働が単に体力的にきついというだけでなく、精神的な負担や、立場的なジレンマ、人材や層の幅と賃金の問題など、なかなかに複雑な課題が内部にはあるのですね。

医師の労働の分担・移譲とそれに伴う権限および地位のバランス化とあわせて解決していくべきなのかな、とざっくりそう思ってしまいますが、そう簡単にいくことではないのでしょうか。看護師の方々ご自身がどう考えていらっしゃるかが大変気になるところです。

>医師の労働の分担・移譲とそれに伴う権限および地位のバランス化(以下略)

なぜ簡単に医師との比較でものを考えるのですか?それが患者にとって良いことだとお考えですか?私はナースが普通の4大卒や短大卒、高卒などの人々と比べて報われないと感じているということを言っています。

>KHPNさま

はっといたしました。

「医療の現状」という全体に、いわば“森”の部分に、目が行ってしまって、「看護師一人ひとりの行動原理」という“木”の部分についての考慮が足りませんでした。

ただ、どうしたら看護師の方々のモチベーションが上がるか、と考えた時に、やはり現在、“医師ありき”で行われている業務のうち、可能なものを“看護師の判断で成立する”業務に切り替えていくことによって、状況が変わっていくのではないかなと思います。責任が生じ、同時にそれはリスクを負うことでもあり、その部分は賃金に反映されることになると考えます。

それにしても、看護師の方々からすると、医師中心の議論が展開されている現在の医療問題には物申したい点がたくさんあるのでしょうね。そのことについて、目を覚まさせていただいた気分です。

 診療報酬に用いられている看護必要度には、次の4種類があります。
・ 「重症度に係る評価票」: ICU用、2002年度導入
・ 「重症度・看護必要度に係る評価票」: ハイケアユニット用、2004年度導入
・ 「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」: 7対1入院基本料用、2008年度導入
・ 「日常生活機能評価」: 回復期リハビリテーション病棟用、2008年度導入

 回復期リハビリテーション病棟に導入された「重症患者回復病棟加算」は、「日常生活機能評価」10点以上を重症とし、重症群のうち3点以上改善したものが3割以上いることが要件となっています。在宅等復帰率等6割以上という要件とあわせ、回復期リハビリテーション病棟への成果主義導入ということで問題視されました。

 「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」を、回復期リハビリテーション病棟で用いた「日常生活機能評価」と同様の目的で使用することが、今回、中医協で提案されたと考えれば分かりやすいと存じます。簡単に言えば、7対1入院基本料をとっている一般病棟にも成果主義を導入しようという提案です。

 問題は、「看護必要度」自体は、看護師の効果的な配置のために開発されたツールです。「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」の点数が下がったことが、患者の状態が改善したことを意味しません。例えば、経口摂取を介助で行っている患者は看護の手間がかかると判断されますが、経管栄養となると「看護必要度」が下がったと判断されます。
 また、重症患者が多い病棟では、「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」の点数が改善しないことも十分考えられます。そうなると、改善しやすい軽症患者が多い病棟の方が良質だという誤った判断を招きかねません。

  「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」改善率を、病棟の機能評価に用いるという提案はきわめて危険なものです。

リハ医さま

具体的なご指導をありがとうございました。

>。「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」の点数が下がったことが、患者の状態が改善したことを意味しません。

この点については、字面では理解していたつもりでした。しかし、具体的に例を挙げていただいたことで、私の中にも危機感が芽生えました。これを病院機能の評価に使うなんて、ひじょうに恐ろしいことです!患者の状態としては悪化しているのに看護必要度が上がって良い病棟とされたり、重症患者がもともと多い病棟はそれだけで「なかなか重症度が改善しない低質な病棟」と判断されたりしてしまうんですよね。

この議論に異論を唱える委員はその場にいなかったのでしょうか?

堀米さま

>ただ、どうしたら看護師の方々のモチベーションが上がるか、と考えた時に、やはり現在、“医師ありき”で行われている業務のうち、可能なものを“看護師の判断で成立する”業務に切り替えていくことによって、状況が変わっていくのではないかなと思います。責任が生じ、同時にそれはリスクを負うことでもあり、その部分は賃金に反映されることになると考えます。

では、どんな業務や責任を医師からナースに移せば、堀米さまは患者として医師ではなくナースにかかりたいとお考えですか?
漠然とした観念論ではなく、具体的にこういう業務をと例示していただければ議論もしやすいかと思いますが。

KHPNさま

具体的には、すでに厚労省が「医師と医療関係職の役割分担推進について」という通知で挙げている内容の徹底から始めてはと思います。薬剤の投与量の調節、患者・家族への説明、点滴などの静脈注射などがそれにあたるようですね。つい先日の厚労省の資料(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/04/dl/s0415-10a.pdfの23ページグラフ)によれば、医師と看護師の業務分担の進み具合は56.4%で、まだまだ改善の余地があるのではないかなあと思います。

ただ、その理由についてはしっかり見ていく必要があるのもご指摘と重なるかと思います。患者さんからすれば当然、医師から受けるべきと思う説明等もあるでしょうから、移譲する内容を慎重に検討したうえで、分担確認を徹底し、情報共有することが必要なのは確かです。また、それによって単純に看護師の負担が増えてより多忙になるのでは仕方ありませんから、同時に増員および昇給が図れるように、病院の医療収入をきちんと上げる(医療費を増やす)ことは不可欠だと思います。

掘米さま

>薬剤の投与量の調節、患者・家族への説明、点滴などの静脈注射などがそれにあたるようですね。

Common Diseaseはすべてナースが初診と初期治療を行うべしというような、もっと大胆なご意見をお持ちかと思っていましたが、この程度のことで宜しいのですか?
この内容でナースのモチベーションが上がるとお考えなのでしょうか?

KHPNさま

具体的な業務内容の線引き箇所を、看護師のモチベーションを基準に議論していたら、個人差がありすぎて定めようがありません。どの程度で納得するかは看護師個人の主観の問題なので。

これは私の想像にすぎませんが、業務内容を医師からどれだけ獲得するか、その数の多さ、範囲の広さが問題なのではないと思います。問題は、一定の業務に関して第一に責任を追うものとして、医療現場で、医療関係者そして患者側双方からどれだけ尊重されるか、という部分ではないかと思うのです。

確かに上で挙げた内容では不十分と感じる看護師の方もいらっしゃるかもしれません。ただ、もっと踏み込むには、KHPNさんがご指摘のとおり、経験や知識等、看護師の層の上下を考慮必要が出てきますよね。私はむしろ、そういう点を含めて本格的な議論がされてもいいように思います。それは看護師側内部だけでの議論では実現しません。医師側や病院経営側、その他のコメディカルなど、関係者が一同に会して検討しなければなりません。

その結果、医師の業務が看護師に移されたとしても、もし看護師が確かな技術と責任と自信を持って担当してくれるのであれば、患者からの文句は出ないはずですし、出たとしても納得してもらうことができるはずだと思うのです・・・。

リハ医さんが書かれたこと、、

> 「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」を、
>回復期リハビリテーション病棟で用いた「日常生活機能評価」と
>同様の目的で使用することが、今回、中医協で提案された
>と考えれば分かりやすいと存じます。
>簡単に言えば、7対1入院基本料をとっている一般病棟にも
>成果主義を導入しようという提案です。

> 「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」改善率を、
>病棟の機能評価に用いるという提案はきわめて危険なものです。

これが今回の記事の最も言いたいところでは、とわたしは理解しました。
7対1を強引に入れて地方の看護師不足を招いた看護協会ですから。
その看護協会の副会長が「地方のナースが足りないで困っている」と言ってる

おかしいと思わないですか? ということでしょう!!

「看護協会、おまえが言うな」みたいな皮肉がタップリ効いた、わかるひとにはわかる内容です。新井くんらしいですね。
うちの看護部長もちょっと前までは「看護協会がこう言ってるから!」と迎合してましたが、
7対1でかなりまいったらしくて、最近では看護必要度が厳しくなるんじゃないかと冷めた目で見てる感じです。

掘米さま

>薬剤の投与量の調節、患者・家族への説明、点滴などの静脈注射などがそれにあたるようですね。

Common Diseaseはすべてナースが初診と初期治療を行うべしというような、もっと大胆なご意見をお持ちかと思っていましたが、この程度のことで宜しいのですか?
この内容でナースのモチベーションが上がるとお考えなのでしょうか?

堀米さま

>看護師のモチベーションを基準に議論していたら、個人差がありすぎて定めようがありません。
>業務内容を医師からどれだけ獲得するか、その数の多さ、範囲の広さが問題なのではないと思います。問題は、一定の業務に関して第一に責任を追うものとして、医療現場で、医療関係者そして患者側双方からどれだけ尊重されるか、という部分ではないかと思うのです。

ですよね。
現場に復帰しないナースの多くも別にこのことが主たる要因で復帰しないわけではないのでしょう。先に自分が述べたことの他にも勤務時間の育児との兼ね合いや保育所の有無の問題などもあり、こういうところでは市場原理(労務・責任に対する賃金・待遇)が働いて結果としてナース不足が現象として起こっているのではありませんか。


>確かに上で挙げた内容では不十分と感じる看護師の方もいらっしゃるかもしれません。ただ、もっと踏み込むには、KHPNさんがご指摘のとおり、経験や知識等、看護師の層の上下を考慮必要が出てきますよね。(中略)もし看護師が確かな技術と責任と自信を持って担当してくれるのであれば、患者からの文句は出ないはずですし、出たとしても納得してもらうことができるはずだと思うのです・・・。

うーん、どうでしょう。三師会と看護協会との話し合いで決着がつくような話ではないと思いますが。
ここまでできる人材であるなら、素直に医師免許獲得に向かってチャレンジしていただく方が、きちんとした医学教育も受けられて患者にとっても本人にとっても良いように思えます。夜勤をやりながら医学生になったナースと一緒に臨床実習を行った自分(20年以上前の北米での話です)の感覚からすると、むしろメディカルスクール構想の方が好ましいように思えますが。


NssN さま

>「看護協会、おまえが言うな」みたいな皮肉がタップリ効いた、わかるひとにはわかる内容です。新井くんらしいですね。

なるほど、こう読むのですか。勉強になりました。

KHPNさま

たしかに今の三師会と看護協会の関係やそれぞれの考え方を見ていると、決着がつくようには思えませんね・・・。

>ここまでできる人材であるなら、素直に医師免許獲得に向かってチャレンジしていただく方が、きちんとした医学教育も受けられて患者にとっても本人にとっても良いように思えます。

ただ、看護師に医師にはないやりがいを感じ、そうしたものを支えに激務の中、仕事を続けていらっしゃる方々も知り合いにいます。特に患者さんとの距離感は格段に違うもののようです。それは患者さんにとっても大切な部分ではないかと思えます。医師にしかできないことがある一方、看護師というポジションだからこそできることもあり、その点をより活かせるよう業務内容を拡大し、それが社会的地位・賃金に反映されてもいいように思います。

医師になろう、あるいはなりたいという看護師の方がいらっしゃるなら、それはたぶん、それだけの理由を日々の業務で実感されてのことだと思いますが、そうした動機が生まれたそもそもの理由が、現在の看護業務の限界にあるというケースも考えられるのではないでしょうか。

もちろん、純粋に医師としての仕事に目覚めたなら、医師を目指していただくのがむしろよいでしょうし、そうした方々(看護師に限らず)のために広く開かれたメディカルスクール構想は、私も賛成です。だいたい高校受験のときに医学部を選ぶ理由は、まず偏差値との相談、そして医師の地位や生活レベルに関するごく一般的なイメージだったりします。だから医師の資質云々という話が出てきてるんですよね。

コメントを投稿


上の画像に表示されているセキュリティコード(6桁の半角数字)を入力してください。