たとえパフォーマンスでも。

投稿者: | 投稿日時: 2009年04月25日 15:10

猪瀬直樹副都知事を座長とする東京都の「周産期医療体制整備プロジェクトチーム」がNICUの整備に関する提言を舛添厚労大臣に提出したのは先月半ばのこと。それについては、先月末のエントリー「予算も足りてないそうです。」で触れました。


そして今回、そのプロジェクトチームが24日、東京都医師会会長に、妊婦のリスクに応じて中核病院と周辺地域の医療機関が役割分担する「セミオープンシステム」と呼ばれる仕組みの導入を提言した、という報道がありました。

セミオープンシステムを提言 妊婦たらい回し問題で
産経ニュース 2009.4.24


しかし記事はあまりにシンプルで、読んでも「セミオープンシステム」自体が何のことだかわかりません・・・。


ということで、セミオープンシステムとはなんなのか、調べ始めるとすぐに、厚労省の資料に行き当たりました。

周産期医療施設オープン病院化モデル事業 3年間の取組
(平成20年3月 厚生労働省医政局総務課 医療安全推進室)


平成17年から3年間、厚生労働省の補助事業として「周産期医療施設オープン病院化モデル事業」が実施されていたようです。上記資料は、各モデル地域における3年間の取組みをとりまとめた報告書です。


この報告書によれば、セミオープンシステムの定義は、「妊婦健診をたとえば9ヶ月位まで診療所で診療所の医師が行い、その後は提携病院へ患者を送るもの」となっています。なるほど、ちょっと聞いたところよさそうな仕組みのような気がしますね。

実際、成果として報告されているもののうち、いくつか引用してみると、

●医療機能に応じた役割分担、外来患者の分散による高次医療機関の機能保全。=オープン病院の外来の混雑が緩和され、待ち時間が短縮された。〔東京都〕
●入院ベッドをもたない産婦人科医、高齢で分娩を取りやめようとしていた医師が参加することによる周産期医療に関与する医師の増加。〔岡山県〕
●受け入れ病院の分娩数増加により、医学生、初期研修医、助産師をめざす学生の教育の充実。〔岡山県〕
●オープン病院産科医師の労働環境改善及びそれに伴う医療安全の向上。
=外来診察の業務軽減による、産科医師の労働環境が改善された。〔東京都(広島県、宮城県も同様)〕
●セミオープン化し、病院で34 週以降の管理を行うこととしたため、開業医か
らハイリスクの妊婦が週末にいきなり送られてくるようなことが減った。〔静岡
県〕
●オープン病院を核として地域の診療所をネットワーク化でき、地域の診療レベルの標準化が可能となった。〔三重県〕
●参加妊婦の満足度は高く(アンケート結果から)、登録医療機関の医師
からも評価が高かった。〔広島県〕

と、かなりの高評価が上がってきたようです。


ところで、上記の事業のうち、東京都でモデルとなったのは、実は、先日から話題の愛育病院でした。愛育病院の場合、セミオープンシステムについてはそれなりに上手くいったのか、大きな問題点は報告されていません。むしろ引用したとおり、「産科医師の労働環境が改善された」とまで言っているのです。

さらに報告書では、その成果を受けて「東京都では、都内をいくつかのネットワークグループに分け、総合周産期母子医療センターを中心とした「顔の見える連携」を目指す。このネットワークグループ内における分娩を集約する施設としてオープン病院の仕組みを利用できないか、来年度から立ち上げるネットワークグループ連絡会議で検討を実施する予定」とも記しています。

しかしながら、それから数年後、結局は先日の騒動と相成ってしまったわけで、3年を費やしたモデル事業が、活かされなかったのか、間に合わなかったのか、あるいは焼石に水だったということなのか・・・?「ネットワークグループ連絡会議」というものが結局どうなってしまっているのか、よくわかりません。


一方、他の地域からはいろいろ課題も指摘されていました。いくつか気になったものを抜粋してみます。

●分娩が増加しても医師及び助産師が不足しているため、更にオーバーワークの傾向に拍車が掛かっている。〔静岡県〕
●他の地域へ普及させていきたいが、受入れ側となる病院の医師不足であり、現実的に拡大していくことが難しい。緊急的な医師確保対策と同時に機能させていく必要がある。〔滋賀県〕
●妊婦の病院志向には根強いものがあり、オープンシステムについて説明し、利用を勧めても、病院での健診を希望する妊婦が少なくなかった。〔広島県〕


今回の提言はテレビでも報道され、猪瀬副知事は、日本医科大学多摩永山病院が2年前からセミオープンシステムを導入して、外来の患者数減少により同院でリスクの高い分娩に対応することができるようになった旨をインタビューで答えていました。たしかに東京近郊でも成功例があるということなのですね。それでもモデル事業で指摘された上記課題も、東京都でも地域によってはかなり現実的な問題に見えます。


ということで、セミオープンシステムがどこまで医師不足の現場の負担を実質的に軽減できるか、期待しつつも、なんともいえないところではあります。しかし、どんどん視察に出向いて提言につなげる猪瀬副知事の行動力は、一般論として頼もしいですよね(内容や政策の具体案の一つ一つの評価は別として)。←パフォーマンスが上手なのかもしれませんが。もちろん、その提言を受け取った側が、さあどうするか、というのが一番の問題なのも確かですけれど、ね。

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コメント

NICUの施設基準を是非ご覧ください
それらでは過剰な人員が要求されてたりします
1:3看護とか
べつにNICUを名乗らない、保険診療上は違うけれども、同等施設をみなす必要もあるんじゃないかと思います
できれば、保険診療の基準を緩和してもらった方がよいのでしょうけど、それでベッドが回り出すと思いません?

tuneさま

情報提供ありがとうございます。なるほど、人手不足にあって、そうした基準が設置の足を引っ張ってもいるのですね。ただ、「NICUを名乗らない、保険診療上は違うけれども、同等施設をみな」したとしても、じゃあ例えば補助金の議論になったらどうかというと、残念ながらそれらの「みなし施設」はあっさり切捨てられたり、かなり待遇に差をつけたりされてしまわないかと懸念します(実際問題、NICUは維持コストが膨大なので、財政面を念頭に置いた議論が重要で・・・)。やはり人手不足が解消されるまでの暫定措置でもいいので、基準を緩和するなり、何らかの措置が必要なのかもしれませんね。実際、ドクターもコメディカルも人手が全然足りなかったらそれどころの話ではないでしょうけれど。

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