ロハス・メディカルvol.112(2015年1月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2015年1月号です。


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ませんでした。通常の運転をする限りは、全く不要の仕組みだったからです。 普通なら省くような不要の仕組みをわざわざ入れたのは、HIMACのシンクロトロン建設を仕切った佐藤健次・医用重粒子線研究部第2研究室長(当時、現在は大阪大学名誉教授)で、しかもその目的は現在の使われ方とは全く異なるものでした。 佐藤氏は、当時のことを回想して、以下のような文章を書いています。︱︱(平尾泰男)先生はHIMACを2台のシンクロトロンにすることに熱い思いを持っておられ、その実現に取り組んだ筆者は少なからずストレスを感じた。しかし、2台のシンクロトロンであるがゆえに、シンクロトロンが1台だけのときには不要と思える、「クロック停止」と呼ぶ制御機能を設けておいた。(アルス文庫、『シンクロトロンでは電源良ければ全て良し』より) つまり、ニューマトロン計画の夢破れた平尾氏が放医研へ移籍する決定的な理由となった二重リングが、「クロック停止」誕生のきっかけになっているらしいのです。どういうことでしょうか。 これには、HIMACが、その巨額の建設費を正当化するために、平日の昼は治療に使うけれども、夜間や休日は物理の実験にも使うことになっていたのも影響しています。 「昼と夜とで違うエネルギーの粒子を加速しようとする場合、当時の教科書的には、いったん最大出力まで上げて初期化してから目的の出力まで下げていく手順になっていたんですな。そうしないと、ヒステリシス現象※の影響を受けてしまうと言われていました」と、佐藤氏は解説します。 そんな影響を受けたら、照射に使うビームの状態が一定しないことになり、治療効果を云々する以前の問題です。このため、いったん最大出力にして前の「記憶」をリセットすることになっていたというのです(現在では、この方法は使われていないそうです)。先ほどの上げ下げの話に似ていますが、HIMACは治療の時に最大出力の半分程度までしかエネルギーを上げませんので、装置そのものへの影響という意味では次元の異なる話です。 「2台のリングで同時に最大出力まで上げたら何が起きるか怖くて、そこで片方の初期化が終わるまで、もう片方は止まって待ってなさいということをできるようにしたんです」 二重リングのシンクロトロンはHIMACしかありませんでしたから、「他の所で、クロック停止を考えつく理由も、作る理由もないですよ」と佐藤氏は言います。 多段減速の実現に取り組んだ古川卓司・放医研重粒子医科学センター次世代重粒子治療研究プログラム照射ビーム研究チームチームリーダーも「実際には仕組みがちゃんと動かなかったので、使うためにかなりの改造や調整が必要でしたけれど、(時計を止めて)クロック信号を停止するという発想がとにかく素晴らしいです」と評価しています。古川卓司氏※ある物理的状態が、現在加えられている力だけでなく、過去に加わった力も「記憶」して定まること。この場合で言うと、停止前に加速していたものによって、再運転後の状態が変わることになります。LOHASMEDICALVIEW6LOHASMEDICAL


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