ロハス・メディカルvol.113(2015年2月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2015年2月号です。


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LOHASMEDICALVIEW この理論は、HIMAC電源の正しさを証明しただけでなく、ノイズの振る舞いが予測不能になっていた理由も明らかにし、ノイズに悩まされている様々な分野に革命的変化をもたらす可能性があるので、次回に説明します。 ちなみにD社こと日立製作所は後年、社内の技術を紹介する雑誌『日立評論』に「このような高速応答、低リプルの特性を持つ電源を開発し、(中略)1994年3月から運転を開始しており、仕様を上回る高性能が得られ、現在、がん治療の研究に利用されている。」(『日立評論』1997年2月号より)と、誇らしげな文章を載せています。この文にある「リプル」は電流の揺らぎのことで、ノイズが低いとリプルも低くなります。 電源のノイズを低く抑えられたことは、ビームの品質を安定させる以上の効果を生んだのかもしれません。 HIMACが堅牢で、ほとんど故障していないことは、この連載でも故障の少なさも恩恵?何回かご紹介しました。 その理由を、多くの関係者の証言を参照しながら「実証された技術だけを組み合わせて造ったから」と説明してきましたが、少なくともシンクロトロンの電磁石電源に関してはHIMAC全体の設計者である平尾氏も知らない間に「性能仕様を外す」という大博打が行われ、世界で最初の回路が採用されていました。 つまり「実証済み」だけでは説明がつかないことになります。 電気工学の世界では、電磁ノイズによって機器が誤作動したり破壊されたりすることは、よく知られています。ノイズが低いため故障しづらかったという可能性は十分に考えられ、佐藤氏もそう主張しています。 残念ながら、炭素イオン線治療施設自体が極めて少ないうえに、日本の後続施設はHIMACの技術を踏襲して造られていることから、他の電源回路を使った施設と比較できる人がいません。 しかし少なくとも三次元スキャニング照射を実現するうえでは、電源ノイズの低さは大きな意味を持っていたようです。 前々回の当コーナーで、三次元スキャニング照射システムには、ビームの位置と量を常時監視して、計画とのズレを修正したりビームを止めたりする機構が付いていることを説明しました。 「線量モニターは、ビームの量を%の精度で見ないといけません。ナノアンペアの世界です。対して、HIMACの電源なんかだと2千アンペアとか3千アンペアとかあります。電源ノイズのお釣りがアースから入って来ちゃったら、何をモニターしているんだか分からなくなって、制御エラーを起こす危険があります。こういう大きな設備は、一度造っちゃうとノイズが出ても原因がなかなか分からないし、改修も極めて難しいので、そういうことがないのは助かります」と古川卓司・放医研重粒子医科学センター次世代重粒子治療研究プログラム照射ビーム研究チームチームリーダーは話します。 独自の電源が、HIMACの優秀さを支えていることは間違いありません。8LOHASMEDICAL


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