ロハス・メディカルvol.136(2017年1月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2017年1月号です。


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LOHASMEDICALVIEW人あたり年間何千万円という請求が何件も来かねない高額薬剤費の問題は極めて深刻な経営リスクです。一部の企業では既に、高額な医療費を必要とする患者を雇用しないという形で実質的な医療費の支払い拒否を始めていること、前回お伝えしました。 がん患者の就労を支援しようという機運が社会に高まっている時であり、このような企業を道義的に批判することは容易です。 しかし、国民皆保険によって支えられている医療は、他の産業分野と異なり、受益者と費用負担者が原則として別です。「費用負担者である健康な人」が「困った時はお互い様」という考えを持てないほど困窮している、あるいはそう思えないほど制度設計が悪い、だから支払いを拒否される、という大きな問題に目をつぶって対処しないなら、国民皆保険制度の命運は尽きたも同然です。回、日本の薬価は欧州各国に比べて高めであることをお知らせしました。日本は、世界でも珍しく、薬事承認された薬のほぼ全部を健康保険が償還します。つまり適応疾患でないものに使ったというようなことでもない限り、健保組合など保険者は、薬代の支払いを拒否できません。 規模の小さな健保組合と、そこに保険料を労使折半で拠出している企業にとって、1 皆さんもよくご承知のように、日本は、かつて世界有数の豊かな国でした。しかし残念ながら失われた20年を経て、1997年以降の名目GDPが総額でも1人あたりでも全く増えていないか、むしろ減っています。国全体でこそまだ世界3位ですが、1人あたりにすればOECDの20位(2015年)でしかありません。 と同時に「1億総中流」の幻想も崩壊して、社会の所得格差が拡大の一途です(グラフ①)。しかもこれ、お金持ちが増えたという方向の拡がり方ではなく、中流から下流へ落ちる人が増えたという拡がり方です。最終的には、社会保障などによる再分配を通じて、OECD平均並みの格差に抑え込んでいますが、再分配する財源の一部には赤字国債が充てられており、つまり将来世代に大きなツケを回画期的な新薬の多くを世界でもいち早く、しかも安価に患者が使える国民皆保険制度は、患者や医療関係者にとっては実にありがたい仕組みです。しかし、さすがに話が旨過ぎたかもしれません。このままの形で続けることで、何か大事なものが壊れてしまわないか、再確認が必要です。本誌編集発行人川口恭子どもの貧困放置して薬に大金はたく不合理オプジーボの光と影8もはや豊かではない前28


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