ロハス・メディカルvol.137(2017年2月号)

ロハス・メディカル2017年2月号です。睡眠と免疫の関係、水晶体とオートファジー、体幹トレーニング、血管の傷みが分かる検査、亀田総合病院事件、小松秀樹、がん対策基本法の狙い、オプジーボの光と影9など


>> P.29

LOHASMEDICALVIEWの公的保険が、費用対効果に見合わない価格で薬を買う義理もないはずです。ドラッグ・ラグの発生を心配して、高額な薬価を容認せよと主張する方は、問題の本質を見誤っていると思います。 開発失敗のリスクに耐えて新薬を生み出し続けるため、メガファーマは合併を繰り返して、巨大化・グローバル化しています。また新薬企業が、生み出した新薬から大きな販売利益を望めるのは、一般的に特許の保護期間のみ、つまり時間が限られます。なので、そうしたグローバル企業は、利益の得られる期間を最大化するため、臨床試験を短期間のうちに世界で一斉に行って、承認申請も世界ほぼ同時に行うという形態になりつつあります。 日本は、承認審査の際に、原則として日本での治験データを求めます。逆に言うと、日本で臨床試験まで終わって良好な結果が出ているなら申請できるわけです。よほどヒドイ価格になると予測されるのでもない限り、日本ほど大きな市場で、臨床試験が終わっているのに申請と販売開始を遅らせるのは得策でありません。つまり日本での臨床試験が世界と同時に行われている限り、ドラッグ・ラグを心配する必要は、それほどないのです。心配しなければならないのは、臨床試験をパスされることの方です。 この観点に立つと、数年のうちに薬価の決め方が激変するかもしれない国はリスクが高くなります。上場企業の存在原理は投下資金に対して株主にリターンを返すことで、何年間かを要する臨床試験の実施中に制度が激変すると、投資を回収する予定が狂うからです。高い価格で買ってくれるかもしれないけれど何が起きるか分からないという国より、大した金額では買ってくれないだろうけれど確実に予測が立つという国での開発を優先するのは当然です。 オプジーボ騒動で、既存ルールでも対応できたのにそうせず、場当たり的に対策を小出しした揚げ句、官邸から介入を受けて制度を全面的に見直さざるを得なくなった厚生労働省と中央社会保険医療協議会(中医協)が国益を大きく損ねたということは、お分かりいただけると思います。 ただ、今さら過ぎてしまったことをクドクド言ってみても仕方ありません。今後ドラッグ・ラグを招かないためにも、少なくとも10年単位で揺るがないような価格の決め方を早く示す必要があります。 今の議論の進め方では、すぐ見直しが必要になることは明らかですから、一見遠回りのようでも、費用対効果に見合う額しか払わない、と早く決めるべきです。 ただし、薬価制度が安定したからと言って、ドラッグ・ラグを避けられるとは限りません。 2016年8月26日のがん対策推進協議会で、委員の大江裕一郎・国立がん研究センター中央病院副院長は、「ドラッグ・ラグを回避するには、グローバル企業の開発に我々が付いていかなければいけないということです。そのためには一番は、開発の時の最初の段階のフェーズ1試験(中略)から、我々が研究に関わっていく必要があるわけです」と述べ、檜山英三・広島大学教授も「とにかくフェーズ1が始まる辺りから我々が関与していないと、欧米と一タネを生み育てるべし小手先で薬価制度を変えると開発を後回しにされ、ラグ招く29


<< | < | > | >>