ロハス・メディカルvol.140(2017年5月号)

ロハス・メディカル2017年5月号です。「口から人生を豊かに」2回目は、お手入れの方法です。奈良夏樹氏voice。行動活性化療法。高齢者のポリファーマシー。梅村聡氏と井上清成氏の対談。新専門医って何?ほか。


>> P.2

LOHASMEDICALVOICE学の発展により、既にリスク要因が明らかで予防や管理の可能な疾病と、未だ予防することが困難な疾病に分類することが可能になりました。前者の代表例として、脳梗塞や心筋梗塞などの原因となるメタボリック症候群を挙げることができます。後者の代表例としてがん(一部を除く)が挙げられます。 我が国の健康保険制度では予防への給付がないため、その代わりに保険の担い手である保険者が、加入者の健康を守る「保健事業」を行います。 メタボのような一定の予防が可能な疾病の場合、医療が必要となる前に、生活や環境のリスク要因を見つけ改善しようとする取り組みが増えてきました。がんなど予防することが困難な疾病に関しては、早期発見・早期治療に結び付けるよう、検診が保健事業のメインになります。これら保健事業を上手に使うことで医療給付を抑えてこそ、保険者はその真価を発揮していると言えます。 さて、歯科医療費の内訳はむし歯と歯周病の治療費がほぼすべてです。どちらもリスク要因が明確に分かっている予防可能疾患です。ということは、生活や環境のリスク要因を見つけ遠ざけようとする「メタボ型」保健事業こそ、歯科疾患に対し保険者がすべきことのはずです。ところが実際に広く行われているのは、歯科検診によるむし歯や歯周病の早期発見と歯科への早期受診勧奨という「がん型」保健事業です。 私たちが契約健保組合のレセプトデータを分析したところ、歯科医療費給付のうち7割以上が「治療」に充てられており、リスク低減のための「管理」は2割強に過ぎませんでした。また、患者の年齢が上がるほど「治療」の比率は増えることも示唆されました。試算では、この「治療」を、「管理」の段階で食い止められていたなら、給付総額は44%減ります。 もちろん予防に熱心な歯科医はおり、歯科検診から歯科早期受診という流れでも、リスク低減を積極的に行った場合と、長期で見れば同等の効果を期待できる可能性はあります。ただ、冒頭にも述べたように健康保険が予防には給付しないという建前がある関係上、リスク低減にどの程度の重きを置いて何をどのように提供するかは、各歯科医の経営方針次第になっています。全く予防を行わない診療所から、自費診療で数時間かけて提供する診療所までありますが、加入者は受診するまで違いが分かりません。また、保険者のアドバイスなしでは、歯科医院の良し悪しをご自身の利便性のみで判断してしまうリスクがあります。 保険者の皆様には、加入者の健康のため、また自分たちの財政健全化のため、歯科の保健事業をリスクの発見と予防教育に重点がある「メタボ型」へと転換する、そんなイノベーションをご提案しています。歯科保健事業にイノベーションを奈良夏樹 株式会社ミナケア所属歯科医師なら・なつき●2006年、東京歯科大学卒業。同年、東京都老人医療センター(現・東京都健康長寿医療センター)口腔外科。08年、歯科診療所勤務を経て12年より現職。医2


<< | < | > | >>