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森勇介・大阪大学大学院工学研究科助教授インタビュー

――運だけで凄い発見をしていたんですね。

 CsLiB6O10を発見したのが1993年、間違いなく実用化できるように確信したのが2000年あたりで、まだ35歳前でしたけれど、この発見を超えるような研究が今後出来るのか、と思うと全く自信がありませんでした。でも、あと30年近く研究者人生があるわけで、それで何を研究しようかなと考えたわけです。今さら素粒子はできんなあ、あれは若い時が勝負だって言うからなあ、となんとなしに雑誌を読んでいたら、これからはバイオだと書いてあったんです。しかも、何やらたんぱく質の結晶化がカギらしい。ホンマやろかと思って、高校の時のバスケット部の後輩で阪大の理学部に入学した高野くんに電話したんですね。理学部だったらたんぱく質のこと知っているかもしれないと思って、「たんぱく質の事、知っとるか?」って。そうしたら、これがまた偶然に、その後輩が阪大蛋白研でたんぱく質の研究しておったんです。

 で、有機物ではレーザーで衝撃を与えて核発生できるし、酸化物では溶液を攪拌すると良い結果が出ているから、たんぱく質でもやってみたいと言ったら、「先輩、頭おかしいと思われるんで、そんなことに巻き込まんといてください」と言うわけです。けれど、まあ先輩後輩の関係ですから、「ええから、やれ」と言って手伝わせました。こいつがこれだけ言うからには、多分まだ誰もやってないだろう、大発見か大ハズレかのどっちかやと思ったのです。

 もちろん最初からうまくいったわけではないんで、どちらかというと後ろ向きになりがちな後輩や学生をなだめすかしてやらせるために、いろいろ方法を考えて最終的に辿り着いたのが、フェムト秒レーザーによる結晶核発生です。衝撃は与えるけど熱は出ないという点が良かったようです。

 最初は構造の簡単なリゾチームで始めたんですが、一度リゾチームで結果が出てしまえば、あとは次々に難しいたんぱく質を試したくなります。で、誰か面白いたんぱく質持ってへんやろかと思っていた時に生協の前で同級生に偶然会いました。立ち話をしたら、睡眠に関係するプロスタグランジン関連酵素の結晶化ができないで悩んでいるというんですね。ほな貸してみいと言って、やってみたら2日で結晶ができてしまいました。膜たんぱく質の結晶化で悩んでいる先生もご紹介いただいて、その結晶化に成功した時は、「これはどんなたんぱく質でも行ける!」って確信しました。この成果がNatureの表紙に取り上げられて、以後は、世界中から集まってくるたんぱくを次々に試して現在に至るという感じですね。

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