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世田谷区医師会内科医会講演会

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国立がんセンター中央病院の土屋了介院長が、ナショナルセンター問題などに関して講演。その模様がインターネットでも中継されるという面白い仕掛け。講演の内容は、班会議などの議論と重なるところが多いので割愛。質疑応答から。

神津(司会)
「夢のあるお話を聴かせていただいた一方で、とりあえず国立がんセンターが平成22年度に独立行政法人化する際に600億円の負債を抱えた状態で、そこまで行き着くのか、海原の大波に翻弄されるのでないかと気になる」

土屋
「一番怖いのはそこの所。今まで独立行政法人化したり民営化したりした所いくつも苦労されている。一番が西川さんのところの日本郵政だと思うが、どうして苦労するかというと国からいろいろ口を出される。なぜ口を出されるかを見た時に、国が株主であるということと同時に借金を抱えているから。その問題に気づいたのは一昨年にJR東日本の山之内さんという人の本をたまたま本屋で立ち読みしてから。国鉄は24兆円の借金があったのを清算事業団にかなり負わせてスタートしているのはご承知の通りで、JR東日本はお前の所は3兆円の分担と言われていたのが、蓋を開けたら6兆円だったらしい。だがJRは商売上手でエキュートとか何とかで大分返した。

しかし考えてみると、病院は統制経済だから返しようがない。病院と似たところという意味では、国立病院群とか国立大学とかはどうか。国立病院は東京医療センターの隣に立派な本部があって矢崎先生だけは国際医療センター総長から行った医師だけど、他はほとんど天下り。中には優秀な官僚も行っているから何とかやっているけれど、天下りは自分たちが何もしたくないから改革の歩みは遅い。国立大学についても、ナショナルセンター問題が出てから、山形大の医学部長の嘉山先生が調べたら全体で1兆円を超える借金があることが明らかになった。そして、各大学に文部科学省の天下りが理事で入っている。その天下りの理事が何をしているか、といえば、借金の返済を交付金でカバーしている。で税金から出しているんだからという理屈で天下りもさせ、何か改革しようとすると交付金を減らすぞと脅しをかけてくる、そんな状態のようだ。

改革という意味では、独法化したら銀行から資金調達する必要も出てくるが、その時に土地を担保に入れてというようなことしたくても、がんセンターは資産計算すらできてない。陰ではやっているのかもしれないが、少なくとも私は知らされていない。レジデントの給与を民間並みにするだけでもお金が要るのだが。それから実は医師賠償保険に今までがんセンターの医師は入ってなかった。国のやることだから、払う必要があったら税金から出る。そういった国の機関でなくなることに伴ってどの程度の費用負担が生じるのかの計算が一切されていない。それを明らかにしてほしいと与謝野大臣(がんセンターで手術をした縁で話をする機会があり「何か恩返ししたい」と言われたとのこと)へは伝えた。メディアも、この問題には気づいたらしく動き出している。とにかく、このお金の不透明さを解決しないと健全経営はできない。

外来は既にいっぱいで、新病院建設の時に通院治療センターに50床を要望したけれど30床に値切られて、最近、救急を潰して36床まで広げた。それでも外来化学療法を1日3回転しないと回らないのだけれど、そのために必要な看護師を雇おうとしても総定員法に引っかかって雇えない」

神津
「配置基準は昭和24年に定められたものが、未だに使われている」

土屋
「おっしゃる通り。変革が何もない。外来の通院治療センターというのは化学療法をやっている。それなのに外来の配置基準だと30人に1人だ。36床3回転で100人来ても3人だ。病棟1個分以上の仕事をしているのに、とんでもない。国立だから定員の定めに従わざるを得ない」

清水(会場)
「土屋先生はいろいろな会の委員をされている。そういった様々な会の横の連携に欠けるような気がするのだが」

土屋
「本来は役所が1つの組織として動かないといけないのだが、今は役所の中に役所がある。局と局の連絡が全くない。たとえば保険局と医政局。たとえば病棟が大変だから例年よりも40人余計に看護師を雇いたいと申請したら言下に却下された。ところが、その1ヵ月後に保険局が7対1配置だということを言い出したら、何と非常勤でもいいから看護師を確保するようにと言ってきた。どうして1ヵ月前に保険局から連絡が行ってないのか。今回ようやく臨床研修については文部科学省と厚生労働省が合同で検討会を持った。あれは舛添大臣が大変に尽力してくださったんで、夜中まで文部科学大臣に掛け合ってつくった。

そういえば、その前段のビジョン具体化検討会でもこんなことがあった。役所を会場にすると1回2時間しか取れず議論が未消化なまま終わるから、1泊2日の泊りがけでやろうという話になって、それだったら舛添大臣の奥さんが湯河原の出身なので湯河原がよかろうと決まっていたら、宿泊するホテルの社長と奥さんのお父様が同姓同名だったので、大臣が私腹を肥やそうとしていると一部メディアが騒ぎ出して開催3日前に中止になった。しかし1日前の朝に大臣から電話がかかってきて、『どうしてもやりたいから、がんセンターで会場つくれないか』と言う。そこで運営局にお願いして会場設営してもらったのだが、運営局が最初に言ったのは、医政局は大臣から何も聞いてない余計なことをするな、だった。大臣から言われたことをして余計なことと言われるところだ。それを無視して強引にやったら、週刊新潮になった。ああいう卑怯なことをやって潰そうとする。

私は院長だが、実は私の下には医師と看護師の診療部門しかない。医事課とか経理課とかの事務部局は運営局長の下にある。独立行政法人になるまで、運営局長の権限はいじるなと本省から念押しされている。一方で独法化後の病院の姿を考えておけというのだが、考えるなら医事課は下にないと。ちなみに看護師も組織図上は私の下にあるが、その人事権は専門官が握っている」


神津
「官僚のつくる数字には意味づけがない。数字の下には現場の人がいて、その質とか生活者としての姿とかがあると思うのだが、どうして官僚は肉付けのない数字をつくってしまうのか」

土屋
「官僚をやったことがないのでよく分からないのだが、現場を知らないということに尽きる。すべて机上の空論だ。彼らも『現場には行った』と言うのだが、聞いてみると、その現場は都道府県のこと。病院の現場を知らない。現場の感覚がないから、自分たちに都合のよいデータばかり出してくる」

神津
「今日の朝日新聞にも、厚労省がパブコメを集めても、その取りまとめもそれに対するコメントも出してないのがかなりあるという記事が載っていた」

土屋
「我々の班会議では最初からホームページを作ってもらったし、日経オンラインの協力で私個人のブログも持った。それでやるようにしたらよろしいのでないか。あらかじめ、勇み足をするかもしれないが、言い過ぎたと思ったら謝るので、言葉尻を捉えた消耗戦はやめましょうというのと建設的な議論をしましょうということを最初に書いた。そこさせ明確にすれば、厚労省もパブコメを恐れる必要はない」

神津
「班会議のメンバーに川越先生が入っている。大変すばらしい方で尊敬されているが、年に280人看取るという。普通はそんなにできない。在宅医の標準ではないので、もう少し地域の実情を反映するようなハブが要るのでないか」

土屋
「たしかに在宅医の最右翼を入れてしまった。決して標準ではなかろう。ただ江口先生が緩和ケア学会の理事長なので、そこでバランスを取ったつもりだ。先ほどの話に戻ると、匿名の卑怯者は相手にしないと割り切ることにした。昔から果し合いの時には名乗りあうのが日本の文化。そういう姿勢が一番大事」

神津
「高い機能を持った診療所の連携は世田谷ではできていると自負している。家庭医が急にできるわけではないし、家庭医だから優れているとは限らない。個人によって差は出るだろう。家庭医の制度を考える時、今すでに地域にいるのは大学病院の専門医から10年かけて家庭医的な役割を果たすようになった医師たち。そういう人との連携が非常に大事になると思うのだが、移行の計画は考えているのか」

土屋
「現実に地域を支えているのは、専門医をした後で、10年20年地域で実地にトレーニングしてきたような先生方。地域に熱心な先生方がいるのは身をもって実感している。(略)つなぎとしては、専門医をやめて開業する前に2、3年でトレーニングする制度が必要だがまだない。山形大では既に始めているようだが。そういうのを10年ぐらい続けていけば3分の1ぐらいは入れ替わるだろうし、そのうちストレートで家庭医になるような人も増えてくるだろう。ただ気をつけないといけないのは、専門医は全国一律のトレーニングで構わないが、家庭医は地域によって果たす役割や性質が違うので、トレーニングも地域に任せないといけない。地域の特性にあった家庭医を育てることが必要だ」

西(会場)
「がん対策基本法ができたが、まだまだ考えているようには現実はなかなかうまくいかない。中核病院に患者を紹介して、また戻ってきてということを考えた時、パスが早くできないかと思うのだが、しかしステージの若いのは楽でも、ステージが高くなると大変な気もする。病院の側として開業医に何か望むことがあれば聴かせてほしい」

土屋
「乱暴な言い方をすると、パスは望み薄と思っている。定型的な手術なら簡単かもしれないが、しかしそういうものならパスに何も書いてなくても問題ない。きちんと申し送りの必要なものは個別性が高くて、しかも殊がんに関してはエビデンスだって少ないのに、そんな時にパスなんか作れない。いまだ研究段階のものに過ぎないのに、パスをつくることが診療連携拠点病院の条件になっていることの方が問題。たとえば在宅での緩和がスムーズにいくためには、入院中に在宅医が病院に来てくれて話をしてくれる方がずっと大事。知らない医師に診てもらわないといけないということで患者さんが非常に心細くなるのだから、入院中に顔合わせしておくべき。ところが、たとえば在宅医が午後の半日休んで病院に回診に行っても、それに対する報酬はゼロ。交通費すら出ない。普段の午後に20人診療しているなら、その20人分と回診した3人分とか等価になるような報酬体系にしないと。そういうキメ細かさの方がパスなんかよりよほど大事だと思う。そうやって蓄積して行って、一般化できるものが出てきたなら、それをパスにすればよい」

村島(会場)
「私は消化器内科の専門医の学術委員をしている。こういった小さな学会の専門医についてどういう考えをお持ちか、収入との関連でお聞かせ願えれば」

土屋
「専門医を何段階で考えるかの問題だと思う。理念的には2段階がいいのかなと思うのだが、しかし現実には3段目、4段目の専門医もある。一般的に論じるのは2段目までで、それ以降は個別的な話になるだろう。手技の一般化などによって、今は3段目のものが2段目に降りてくることもあるだろうが、今は1段目にも行かない臨床研修で揉めている。あんなのアメリカなら学生教育のレベルと言われてしまうだろう。で、個別に考える時のインセンティブに関してだが、資格に対してというより手技に対してつけた方がよいのでないか。その方が実効性がある」

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