文字の大きさ

ニュース〜医療の今がわかる

「医療崩壊が表れた」―都の脳卒中連携搬送協議会


 
■国と自治体から迫られる脳卒中医療の体制整備
 この搬送システムは、各都道府県が策定している医療計画に基づくもの。1985年の改正医療法で都道府県に策定が義務付けられた医療計画は、医療費抑制のための病床規制が主目的だったが、2006年の同法改正で、各病院の役割分担など地域医療の整備が主眼に置かれた。国はがんや脳卒中など4疾病と、救急や周産期医療など5事業の医療提供体制について詳細な計画を立てるよう都道府県に求めており、特に脳卒中医療に重点を置いている。
 
 国には脳卒中の後遺症の患者を減らすことで医療費を抑えたいねらいがあるため、2008年度の診療報酬改定でも脳梗塞発症後 3時間以内のt-PA(血栓溶解薬)投与による超急性期治療や、医療計画に記載された医療機関に対する評価など、脳卒中医療に関する評価をさまざま盛り込んだ。
協議会委員.jpg 
 医療機関からすれば、診療報酬と医療計画、つまり国と自治体から突き上げられる格好で、お金と運用ルールの両面の圧力を受けながら、脳卒中医療の構築を迫られていることになる。
 
 こうした国の動きを歓迎する向きもある。岡山県倉敷市や東京都北多摩西部医療圏などでは、要介護状態になる高齢者を減らそうと、すでに独自の方法で脳卒中医療連携に取り組んで成果を上げてきた。これらに習いたいと思っていた自治体など、この動きを追い風にして積極的に脳卒中医療連携に取り組もうという地域もある。ただ、2次医療圏や東京都の区部単位など狭い範囲なら、医療機関同士の顔の見える関係の中で工夫を凝らしながら連携体制を構築しやすいが、国の方針によって一気に連携体制をつくるのは難しいという声もある。特に、脳卒中医療ができる医療機関や人材など資源の不足と偏在、地域による医療提供体制の違い、慢性期や在宅医療といった受け皿不足、t-PAは脳梗塞の中でも限られたタイプに有効で、2時間以内に搬送しなければならないなど問題は多い。
 
 ただでさえ、国が進めている療養病床削減によって慢性期の受け入れ先がなくなり、混乱している救急医療現場は多い。現場からは、この状況で脳卒中搬送連携を整備して、脳卒中の疑いがある患者の搬送が増えるなどすれば、ますます救急医療が疲弊するとの声が上がる。療養病床不足が深刻な東京都はなおさらだ。
 
 昨年度の脳卒中医療連携協議会の会合でも、有賀会長が、「患者の入り口の議論をしたときには、必ず出口の議論をしなければならない。救急病院が患者の受け入れを『できる』と言いたくても、後ろの部分(後方病床)の議論がある程度煮詰まっていなければ受けるわけにはいかない」と、事務局に詰め寄る場面もあった。自身の病院で療養病床を運営する安藤高朗委員(2008年度委員、東京都医師会理事)は、必要に応じたリハビリ体制を同時に構築していくことの必要性を訴えていた。
  
 
■もう一つの搬送システム、東京ルール
 この脳卒中連携搬送システムに影響する要因はまだある。東京都この4月に開始した独自の取り組み、病院間で受け入れ先を探す救急医療体制、「東京ルール」だ。
 
 このルールは、各医療圏に2か所、合計24病院を「地域救急センター」に指定し、病院間で連絡を取り合って搬送先を見つけるというもの。病院同士で調整する仕組みは全国でもめずらしい。救急隊が受け入れ先を探すのが難しい場合に、センターが救急隊に代わって搬送先を探したり、患者を受け入れたりする。 他の2次救急病院は、空床情報や当直医に関する情報などを提供し、センターがこれらの情報を取りまとめる。それでも受け入れが難しいときには、東京消防庁に配置されたコーディネーターが調整する。
  
 今の地域の医療提供体制に大きな影響を与えることは間違いない脳卒中連携搬送システム。そして同時に始まった東京ルール。東京都の救急医療のシステム構築が、今後の都内の医療にどういう影響を与えるか、都内外からの注目度は高い。

 ほとんどの都道府県は2008年度に医療計画を策定し終えており、脳卒中医療の体制整備に乗り出しつつある。都内で一斉に搬送を開始した東京都の動向を、他の自治体は注視している。近畿圏北部の衛生局の自治体職員は「東京都は病院も多いしやりやすいと思うが、そもそも病院がない地域では難しい。都道府県で地域医療の実情はかなり違うが、療養病床を増やすことを決めている都の動きは、ほかの自治体も注視しているのでは」と話す。

 1  | 2 |  3 
  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
loading ...
月別インデックス