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国立がんセンター、手術件数回復の裏にある問題


 
 ナショナルセンターの予算は国の予算であるため、人件費や建物の修繕費など使用用途が決められている。今回のように謝金が足りないため、他に充てられている予算から回すという「流用」手続きをしようとしても簡単にはいかず、厚労省側にとって時間も手間もかかる事務手続きが必要になる。昨年度に同病院の麻酔科の非常勤医への謝金として対応が必要になった分は、他のナショナルセンターの修繕費や物品の購入を先送りすることなどによって賄われたという。今年度の補正予算でも国立がんセンターに関して約45億円が計上されているが、これも修繕費や医療機器の購入など用途が決められている。人員体制についてはあくまで常勤雇用が前提の予算組みになっており、今回のように非常勤の応援を借りながらの運営体制は国からすると想定外ということだ。
 
 しかし、それは国側から見た場合の話だ。患者にがん治療を行う医療現場からすれば、今後のがんセンター中央病院を立て直して常勤雇用体制を整えていくためにも、現段階では半分は非常勤医で賄い、そのために謝金は必要になる。しかし、今年度の同院の謝金として計上されたのは2700万円と、昨年度に支払われた謝金のほぼ半額にとどまる。 
   
 土屋院長は、8月以降に非常勤医の応援がなくなった場合、手術件数が3000件台にまで落ち込むとの試算を示す。「手術件数がやっと回復してきて患者さんの手術の待ち時間も減り、新患も増えてきた。これがまた元通りになるのでは、患者さんにとっても、我々臨床家にとっても、こんな不幸なことはない」
 
 4月以降、この予算では麻酔科を賄っていくことは難しいと踏んでいた政策医療課が同病院に内情を尋ねると、予算の「4倍以上の金額が要る」と相談されたという。同課は「まずは実際にどれぐらいの金額が必要かを精査した上で、流用で手当てしていくことが考えられる」と話し、必要経費について同病院と相談した上で、財務省との折衝に入るという。
 
 病院側としては、非常勤医をキャリアのある麻酔科医から若手に変えるなどして1人当たりに支払う謝金の額を下げることでの対応を考えている。ただ、それでも500万円ほどしか変わらないという。土屋院長は、「謝金は完全に持ち出しなのではなく、麻酔科が充実することで手術件数が増えれば、手術料から賄うということも考えられる。ただ、『予算計上』というやり方が前提の現状のナショナルセンターでは難しいこと」と話している。

 
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