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ニュース〜医療の今がわかる

『患者の経済負担を考える』


 ここで『適応外』のことについて、少し述べたい。よくご存じだろうが、添付文書の効能・効果の項目に書かれた疾患名が適応症。適応症でない疾患に処方すると適応外使用になって、医療機関によってはやってくれない。実際にこんな悲劇もあった。外来で抗がん剤治療を受けていたBさんから電話があって、出たら泣いている。聴けば、カーテンを隔てた隣のベッドの男性患者が『ジェムザールか、しんどいんだよな』とつぶやいた。肺がんにはジェムザールは使える。それが聞こえたBさんは悔しくて悔しくて。なぜかと言えば、彼女は卵巣がんだからジェムザールが効くかもしれないのに処方してもらえなくて、効くか効かないか分からないようなものを処方されていた。国が違うならまだあきらめもつくけれど、隣のベッドの人が使っているものをどうして使えないのか、と。『隣の人の点滴を引っこ抜いて自分のに刺したら犯罪だろうか』と聞かれた。Bさんは、その1ヵ月半後に亡くなった。
 
 このBさんの言い分はわがままだろうか。世界60カ国以上で卵巣がんにジェムザールは使える。日本でも肺がんや膵がん胆道がん、尿路上皮がんにはジェムザールは使える。ガイドラインにも載っている。それなのに使えない。

 こんな悲劇もあった。Cさんは、ある県立がんセンターから、『適応外はできないから、治療を望むなら出て行ってくれ』と言われた。県内の自費診療クリニックで当時は適用外だったドキシルの治療を希望したところ、アバスチンとの併用なら引き受けると言われ治療を開始した。その治療費は月に200万円だった。治療費が高いのには目をつぶるとしても、私が何より驚いたのはCさんがアバスチンの消化管穿孔のリスクについて全く説明を受けていなかったこと。もし何かあったとしても彼女はがんセンターを追い出されているわけだから、緊急手術をやってもらえる所がない状態でそんな危険な治療を受けていた。こんな患者を値踏みするようなクリニックに患者が追いやられている。これが日本の医療の正しい姿だろうか。

 適応外は卵巣がんだけの問題ではない。たとえば転移性トリプルネガティブの乳がんについて今年のASCOに<RARP阻害剤+ゲムシタビン/カルボプラチン>で生存期間延長という発表があったのだけれど、適応拡大をしてもらおうとメーカーに言ったら既に特許切れで非常に冷たい対応だったという。こんな時はどうすればいいのか。
 
 それから罹患する人が少ないような肺腺がんとか卵管がん、腹膜がんなどの場合、治療は近傍のがんに準じて行われているので最初から適応外使用。適応外使用は一切するなと言うことは、彼らに即刻死ねと言っているに等しい。他のがん患者にも、この問題にぜひ関心をもってほしい。

 そもそも、なぜ適応外使用がいけないのか。言葉に惑わされているのでないか。エビデンスのある治療が日本でできない方がおかしいのでないか。本当に一個一個の部位について承認申請が必要なのか。

 患者の望みは、本当に必要な治療を受けたいということであり、信頼している医師から説明を受けて確認し納得のうえで治療するのに、なぜ国が口出しをしてくるのか。当たり前の治療を承認もせず口出しするのは身勝手だし、そんなこととっとと承認してからしやがれと言いたい。ただし、その前提として、医師には本当の意味でのプロであってほしいと思う。エビデンスのある治療の提供、命と向き合って考えることに真摯であってほしい。先ほどのCさんの例ではないが、適応外の治療を受けようとすると、ホメオパシーならやるとか、僕の調合した漢方と併用するならやるとか、でまたその漢方がとんでもなく高い、そんなのが珍しくない。自浄というか医師がお互いに監視しあって高めあわないと、いつまで経っても適応外は悪者にされるだろう。

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