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〔新生児医療の教育現場から②〕主治医制と交替勤務制、よりよい労働環境は?

 
  
ワークショップ報告会で行われたプレゼンテーションの内容
  
 最初にに主治医制と担当医制のメリットがそれぞれ主張された。
 
①<「主治医保守党」の主張>
1、人情...一人の医師が新生児を愛情と思いやりを持って診る。緊急時にはいつでも駆けつける。
2、根性...急性期の医師が根性で新生児を支え続ける。72時間連続勤務も行う。
3、責任力...新生児死亡率が世界最低となったのは、責任感を持った医師の努力による成果。担当医制では責任を持てない。
 
②<「交替実現党」の主張>
1、協力...「喜びは2倍に、悲しみは半分に」。若手医師に魅力ある労働環境を提供し、燃え尽きや離職を防止する。
2、安定...交替勤務により常に体調が良好な状態で働ける。人員を集約化し、余裕ある労働環境。
3、標準化...標準治療マニュアルを作成し、どこにいても同じ内容の医療が受けられる。主治医制は"独りよがり"の医療に陥りがちになるため、複数医師が関わり医療内容をフィードバックする。
  
 
 次に、それぞれの"党首"がディベートして双方のメリットとデメリットを主張した。
 
③<双方による意見交換>主...主治医保守党 交...交替実現等
「早産児は年々増加していると言いますが、72時間連続勤務は可能でしょうか。先輩方は超人的な医療をして働いてこられましたが、我々は倒れてしまうのではないかと思います。倒れたらどうするんですか」
「何を言っているんですか、失敬だ。30年間こうやって働いてきたんですよ。私は倒れませんよ」
「主治医保守党の先生は倒れないと言われますが、実際倒れるほど働いていると思います。新生児に携わる先生方がどの程度続けられるかどうかをまとめた資料があります。かなりの方が根性で続けられているのに対し、研修医世代では半数以上が現在の勤務では続けられないと言っています。今の状態で若手医師がついていけますか」
「若い奴は根性が足りない。赤ちゃんのためには倒れるまで働き続ける。そういう熱い魂を持ったものだけが選ばれし新生児科医になればいい」
 
「出生1000人当たりの周産期死亡率は、日本は最高の治療成績です。主治医の血のにじむ努力の賜物です。交替勤務ではこのような成績が残せますか。死亡率が上がってしまうのではないですか」
「確かに素晴らしい成績です。ただ、患者が増えて、新生児科医が減少しているのに、こんな素晴らしい成績を残し続けることが可能でしょうか。新生児科医が絶滅したら、成績も残せません。この実績を残すためにも、魅力ある労働環境を整え、新生児科医を増やすことが先決ではないでしょうか。このような労働環境で若手は来ると思いますか。学生へのアンケートを見ると、若者たちはゆとりある勤務時間を望んでいます」
「そんな軟弱な若手は、要らない」
 
「交替勤務で誰が患者に責任を持つのですか。主治医だから患者を責任を持って診れるのではないのですか」
「複数主治医制を考えています。主治医への負担を分担し、なおかつ責任を持った医療は実現可能だと考えています」
 
「その人数をどうやって集めるのですか。果たして可能なのでしょうか」
「集約化を考えています。そしてパート、非常勤医師の活用など、今働いていない医師の活用を考えます。魅力ある環境づくりで若手医師が新生児科を希望することが予想され、人員確保は可能だと考えます」
 
 "交替実現党"が得票数となる会場からの拍手を多くを得たものの、議席が過半数を満たさなかったとして、最終的に「主治医保守党」と「交替実現党」がそれぞれのメリットを生かした"連立政権"を発足させる形で決着させた(交替制勤務への拍手の方が明らかに大きかったが・・・)。
 
連立政権.jpg④<主治医制+交替勤務制の"連立政権">
1、人情+協力...複数主治医制により、数名のグループで患者を担当。交替勤務制導入。「喜びは2倍に、悲しみは半分に」
2、根性+継続力...急性期のみ患者を診療し続ける「急性期主治医チーム」と、交替制勤務で働く「シフトチーム」に分ける。急性期チームには研修したい若手医師、シフトチームには非常勤医や子育て中の医師など。
3、責任力+安定...チームで治療方針を決定し、マニュアル化された治療により標準医療を全国で展開する。労働環境も安定。
 
■実現には課題山積
 この形でプレゼンテーションは終わったが、実際には交替勤務を行うだけの医師数が足りないことや人件費などのコスト、公立病院の場合は定数の問題もある。神奈川県立こども医療センター新生児科の豊島勝昭医師も「交替勤務の方が明らかに多く人手がかかってしまう」と指摘する。
 
 集約化の議論も外せなくなるが、公立病院や大学病院、特定機能病院など周産期医療に関してどの医療機関がどういう形で中心的役割を担っているかは地域の実情でかなり違うため、一律に集約化すると地域医療に大きな影響を与えてしまう。文部科学省は患者の受け入れ不能問題を解消するため、今年度から国立大学病院のNICUを整備していく方向性を打ち出しているが、同時に新生児科医も必要になるため、マンパワーの分散も懸念されている。
  
セミナーディスカッション中.jpg 民主党の梅村聡参院議員(厚生労働委員会「介護・医療改革作業チーム」事務局長、内科医)は「主治医制は日本の良い点と思う。ただ、そこを起点に壊れている現状がある」との認識を示す。「交替勤務制と複数主治医制がよいと思う。主治医制は中長期的になくしていく方向がよいのではないだろうか」と話し、医師が多く集まる「マグネットホスピタル」に予算を投入して交替勤務や医師派遣の体制を整え、指導医を充実させることも一つの可能性と話す。
 
 プレゼンテーションのための事前準備中にも、「たまには自分が家族にご飯を作りたい」「育児を手伝いたい」との声がある一方で、「患者の状態が落ち着くまでは責任を持って診たい」「若い研修医時代には連続で働いて医療の"流れ"を知りたい」という意見もあった。労働の場であるとともに、教育や研究の場でもある医療現場。どういう働き方が患者や医療者にとってよりよい医療を提供できるのか、医師不足や医師養成が課題となる中で、早急な対策が求められている。
 
 
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