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医学部長病院長会議、新政権向け要望まとめる


--質の話は分かった。医師数の不足についてはどうしたらよいという案なのか。

小川
「3項目目の冒頭に書いてあるが、臨床研修制度が始まる前から医師不足はあったけれど、大学が調整機能を発揮してきたので地域の医師不足も診療科の偏在も起きていなかった。臨床研修制度によってその調整機能が失われた。5月の我々の総会の時に医政局の人が来て(横から嘉山委員長が『杉野さん(医事課長)』と補足)、あの政策は間違いだったと言っていた。国としても欠陥があったと認めているわけで、それも臨床研修と連動している。今の仕組みを変えていただかないと医師不足の解決も難しい。医師養成数を増やしても、今の1年生が実働するようになるには15年くらいかかるので医師不足の即効的解決策にはならない。即効的解決のためには制度そのものを組み直してもらいたい。その案はあるが、今のところは抜本的解決には至っていないということだけ言っておく」

吉村
「たとえば虎の門病院だと初期研修医の枠は20ある。これが後期になると8人。とてもでないが全診療科は埋まらないし、きちんと専門課程まで進めるような一定のシステムでつくっていかないと、初期研修を小さな所に行って終わってまたどうしようという話になってしまう」

小川
「医学教育の問題は、4年時の共用試験の到達目標と国家試験の到達目標と卒後2年の臨床研修の到達目標が全て同じ。3回も同じ目標でやらなければならない。医師養成には多くの税金も使われているのだが無駄な状況にある。医師養成をシームレスでやってもらえれば、医療資源の無駄遣いを止められる」

嘉山
「吉村先生の言ったのは東京の状況。地方はまた別。各都道府県に医療協議会があるけれど、東京を除けばその中心にあるのは勤務医を最も多く抱える大学だ。県行政や関連病院と相談して医師を配置すれば医療崩壊は防げるのでないかと考えている。神保先生が詳しいカナダなんかは医師配置は大学に任せきり。なぜならば医療を質を評価するのは行政には不可能だから。ただそれを実現していくのに大事なのは大学の自浄作用。残念ながら実習をちゃんとやってない大学もあるので、そこは我々がちゃんと自浄作用で、きちんとした医師になれるようなカリキュラムでやらせる必要がある。文部科学省から1500時間の実習到達目標を与えられたということは、そこまでやってなかった大学があるということなんだろう」

河野陽一副会長(=千葉大学病院院長)
「実習をやっていくには、それだけの教官の人的裏づけも必要だ。大昔の大学設置基準が生きているが、当時とは医療教育が全く異なっている。昔は座学で済んでいたが、今はマンツーマンに近い実技指導の必要なことが増え、教官の必要数も増えている。枠が少ないから、教官も育たない。そんな状況でメディカルスクールを認めると、本来であれば設置基準の教官数を増やすべきところに、むしろ基準を緩めることになりかねない。かえって医師教育が薄くなりかねない。まずはスタッフの養成を考えていかないといけないが、今までのところその視点が全く欠けている」

嘉山
「基準を触ってこなかったのは政治と厚生省の怠慢だ。病院の基準は昭和23年のまま、大学設置基準は昭和31年のまま。しかも、これ以上の教官数が必要という数だったはずなのに、いつの間にか上限になっちゃっている」

神保孝一相談役(=札幌医大名誉教授)
「教官数を増やすのは大事だけれど、しかし財政的に限界があるのも確か。カナダがうまくいっているのは、学生であっても1年分の蓄積で下級生を教えるというシステムができているから。1人の上級生が1学年下の学生2人をジュニアで引き連れてセットで動いている。こういうことが可能なのは、学生であっても実技を覚えることができるから。体を使ってやることには1年の長が確実にある。日本では1学年上でも、1年分の内容が伴わない。座学だけだと、教科書を読むのと変わらないという話になってしまう。医学生であっても実技を法的に可能にしてもらうことが必要だ。学生も教官の役割を果たすということで現実に成功している国がある」

--基礎研究者を増やす方法とは?

小川
「これも臨床研修と連動している。基礎に行こうかという若い人の心境になると、将来教授とか講師とか確実にポストが得られるならばよいけれど、そうではない可能性もあるから可能であれば臨床に戻ったり開業したりできる道は残しておきたい。しかし現在の制度では臨床研修を経験してないと開業できない。だから基礎に行こうかという人も2年の研修を受ける。2年経ってみると基礎への情熱は薄れていると、こういうことが起きている。米国では大量に研究費を入れてPh.Dを雇っている。日本が少人数でも比肩できる研究をしてきたのはMDが医師の感性で効率よく研究してきたのだが」

(中略)
--要望は通るという感触か。

小川
「それはまだ分からない。新政権の新政策が起案され発動される前に80大学総意として、医療は国民の命にかかわる極めて重要な政策と位置づけてお願いしておかないといけないということ」

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