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がんの先進医療が普及すると医療費が増える?


■ 「重粒子線を全国に普及するのは反対」 ─ 関原委員
 

[保険局医療課・迫井正深企画官]
 (保険収載せずに)「先進医療として継続します」と(先進医療専門家会議で)決めているものについては、「引き続き先進医療で」ということでございます。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 「先進医療として継続する」ということについて、我々(中医協)が「駄目だ」という権利はないわけですね、中医協には。単なるご報告ですから、それはそれで当然......、嘉山委員、どうぞ。

[嘉山孝正委員(山形大学医学部長)]
 ずっとデータを持っているんでしょうから、じゃ、「重粒子線(治療)」に関して、なぜこれが(保険導入を)却下されたのか教えていただきたい。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 えっと......、(企画官に向かって)今、お手元にはないんですよね? 次回、一杯出てきます、宿題が出ましたから。そのときに、それでは提出していただく......。

[嘉山孝正委員(山形大学医学部長)]
 (支払側の)白川先生に一言。先生が(保険収載するためには)「全国隅々......」とおっしゃったのですが、この「重粒子(線治療)」に関しては日本の機械で70億円、ジーメンスだと200億円ぐらい掛かるんですよ。

 ですから、全国に全部置くわけにはいかないんです。「全国端から端まで」というのが(保険収載に必要な)1つの基準ではないこともあるということをご理解願いたいと思います。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 白川委員、どうぞ。

[白川修二委員(健保連常務理事)]
 いや、それはね、私も説明が不足しておりました。「普及性だけ」ということを言っているわけではございません。全体のスキームの中でステップを踏んで保険導入するということでございますので、ちょっと誤解を生じさせたら大変申し訳ないと思います。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 ちょっと、嘉山委員に1つだけ確認させてください。「重粒子線(治療)」の話について、次回にデータが出てまいりますけれども、その場合ですね、嘉山委員としては「22年度改定の中の保険収載に入れるという議論も今やるべきだ」と、そこまで考えておられるのかどうか。

[嘉山孝正委員(山形大学医学部長)]
 それはもう、絶対にやらなければ日本が取り残されるという危機感を持っています、重粒子に関しては......。陽子線はかなり普及しているのでいいのですが、重粒子だけは日本がトップレベルの技術ですから。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 ちょっと確認したいのですが、先進医療専門家会議から(保険収載を)推薦されている技術以外のものについて、中医協として保険収載したいという議論をして、場合によってはそれをするという判断をするのは初めてのケースになるかと思いますが、技術上、何か問題はありますか? 事務局どうぞ。

[保険局医療課・迫井正深企画官]
 あの......、この手続きにつきましては詳細を整理してもう1回、次回まとめてご報告したいと思っておりますが、私どもの現時点での認識は、そのような取り扱いをしたことがないのはもちろんそうなんですが、「先進医療」の枠組みに入っていますものを......。

 (厚労省保険局医療課が所管する)先進医療専門家会議でまだ評価中であると、評価療養としての位置付けがなされているものを(厚労相の諮問機関である)中医協で保険適用ということになりますと、現在の制度の枠組みがセットされている中でそれを変更するというのは少し......、詳細な整理がいるのかなと考えております。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 はい、ありがとうございます。そういう環境の中に今あるということであります。いずれにしましても、データ等、今日の宿題もありますので、出していただくということになりますので、そのときにまたご意見を承れば......。関原委員、どうぞ。

 ▼ 関原健夫氏(日本対がん協会常務理事)は昨年12月に公益委員に就任。関原氏が社外監査役を務める株式会社ティーケーピー(河野貴輝社長)のホームページなどによると、昭和44年京都大学法学部卒業後、株式会社日本興業銀行(現株式会社みずほフィナンシャルグループ)入行。同社において取締役総合企画部長、執行役員営業第五部長を歴任、平成13年みずほ信託銀行代表取締役副社長就任、退任後日本インベスター・ソリューション・アンド・テクノロジー株式会社代表取締役社長を経て、平成19年10月当社監査役就任。「がん六回 人生全快 現役バンカー16年の闘病記」などの著書がある。

[関原健夫委員(日本対がん協会常務理事、公益委員)]
 ちょっと、嘉山先生からいろんなご意見が出たのでこだわるのですが、私は「重粒子線(治療)」を全国に普及するなんてのは、ぼくは自分で検討した結果、今のところは反対なんです。

 つまり、設備が70億とか100億ということはもちろんあるんですが、ランニングコストが年に40億か50億掛かるわけですよね。現在、日本で(がん診療連携)拠点病院ですら、常勤の放射線医がいるかいないかってギリギリのところでやっているときに、放射線治療の全体の中でプライオリティー(優先順位)を付けた場合に、どうしても「重粒子線(治療)」を全国的に普及するために動かなきゃいかんのかというふうにぼくは......。

 つまり、損得ってのは、設備の償却とか非常に長期でもってコスト計算を......。 ぼくは銀行員だったからそれは分かるんですけどね。だから、「1件当たりいくら」という話ではなくて、相当長い、どのぐらいのスパンで考えるかによってエコノミクスが相当変わってくるわけです。
 ぼくはさまざまな条件を考えたら、「なかなかこれは容易じゃないな」と......。むしろぼくは嘉山先生と、これについてちゃんと議論したいというふうに思います。

 それから、それに関連して、やっぱりこの......。例えば、今回(保険に)入る21番の腹腔鏡で肝臓の手術をする(という技術)......。これは実はトラディショナルに比べて、もちろん大きく切らなくて済むということでは、患者にとって、クオリティーという点で楽だと思いますが......。

 ▼ 先進医療専門家会議が「優先的に保険導入が適切である」と評価した先進医療12技術の中に、「腹腔鏡下肝部分切除術」がある。関原委員はこれを指摘した。

 結局、国民皆保険の中で、医療費全体をいかに有効に少ない中でやっていこうかというときに、「ちょっと楽だから」と言って......、相当、リファレンシャル(参照情報)がないとですね、人のお金を使って治療を受けるわけだから......。
 「少し良いから」ということでやっていくっていうふうにしちゃうとなかなか......。これはさっきの「重粒子線(治療)」にも関係するわけですが、全体としてうまくいかないのではないかということなんで......。

 まあ、症例数も......、まあ、そもそも肝臓の手術なんてのはそんなに多くないわけで、それで腹腔鏡を使うなんてのは、普及の数からいきゃ、大した数ではないから......。
 やっぱりあの......、ぼくは個別に、こういうものは積み上げていくしかですね、全体のバランスを考えたときに、医療費という視点から見てもですね、こういうことでしか......というふうに私は思います。

 それから先進医療について、私は実は(医政局研究開発振興課が所管する)高度医療評価会議のメンバーになっているわけですが、先生方がおっしゃるようにたくさん上がってくるんですが、結局、後で振り返ったときに症例数が非常に少ない。
 例えば、10症例で本当に高度医療をやるのか。それはもっと大学でまとまってやるとか、症例数をたくさんやれるような体制でやらないとですね、なかなか成果もアウトプットも得られないわけですが、やっぱり各医療機関は自分で独自にやりたいという思いもあるもんですからね......。

 日本の、何ていうか、先進医療に対する取り組みの体制、やり方も含めてやらないと、全体的なレベルは上がってこないんじゃないかなーと私は思います。以上です。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 今の発言の意味をですね......、ちょっと確認させていただきたいんですけども、公益委員、この場の言葉の重みは大きいですから、(保険導入の候補として)12の(先進医療)技術が出ているわけですが、これについて個別に「これは保険収載すべきでない」ということをお含みの中での議論ですか?

 ▼ 「腹腔鏡下肝部分切除術」について。

[関原健夫委員(日本対がん協会常務理事、公益委員)]
 私は......、申し訳なかった。これ(腹腔鏡下肝部分切除術)は保険でやるべきだと思っています。ただし、「普及性」とか、数でチェックしたらそんなに多いあれではないし、あと5年したらものすごく増えるとか、そもそもそういう種類の話じゃないということを申し上げた。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 分かりました。「重粒子線(治療)」についてはまだ......、いずれにしても(保険収載の)候補に挙がっていないわけですから、今後、嘉山先生との議論の中で、できるだけ外で議論しておいて、後でまとまった段階でここでやっていただきたい。(会場、笑い)

 嘉山委員、簡単にお願いします。

[嘉山孝正委員(山形大医学部長)]
 関原先生はやはり日本のデータでディスカッションされていると思うんですが、例えばランニングコストにしても、私は全部計算しています。
 それはですね、日本の今の先進医療のあれ(施設数)では(年間)600ぐらいしかできないんですよ。ですから、ランニングコストがペイできません。だから、年間1600やりますとかなりペイできますので、そういう根拠を持って私はお話ししたということでございます。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 はい、またこれからの議論の中でお話ししたいと思います。

 ▼ 今回の議論は現在の中医協の姿を象徴している。いろいろと有益な意見は出るものの、事務局(医療課)が描いた下書きは揺るがない。最後に"援護射撃"が出て、「それは今後の議論」となる。

 いろいろとご意見が出ましたし、宿題も多々出たわけでありますが、本日この先進医療専門家会議から「保険収載するべきだ」として挙げられた技術について、前提として施設基準は先進医療と同じ施設基準を用いるというですが、それで保険収載するということでよろしゅうございますか? (支払側、診療側委員ともうなずく)

 はい、それでは本件については、「中医協としてお認めした」ということにさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。(以下略)

 ▼ この時、開始から既に1時間40分が経過していた。今回の議論はどこかで生かされるのだろうか。なお、「重粒子線治療」について、2009年8月19日に開かれた先進医療専門家会議の議事録の一部を記しておく。同会議も中医協と同じように事務局ペースであることがお分かりいただけるだろう。

○谷川原構成員
 2年前の手続を思い出したときに、医学的評価というのはこういうプロセスでやっていったと思うんですけれども、最後に保険導入されたときの点数が何点つくかというのが、この会議ではなくて厚生労働省のほうで決められて、先進医療でやってきた値段よりも随分安い点数がついたケースというのは、実際に保険診療になって、かえってやりにくくなったというような声もあったかと思いますが、いかがでしょうか。やはりここはあくまで医学的な評価だけで、点数に関してはここの会議では議論しないということなんですか。

○事務局(保険局医療課)
 点数につきましては、今の制度の仕組みでいいますと中医協での審議事項ということになってございますので、ここにおきましては、保険導入の妥当性について御議論いただくという整理になってございます。

○猿田座長
 ほかにございませんでしょうか。前のときにもそうだったですね。点数は中医協のほうで決めると。ただ、こちらのほうで十分議論して出していただくと、大体、中医協のほうはこちらの意見を通してくれるということでございます。どうぞ、金子先生。

○金子構成員
 保険導入した後の点数のことでまた蒸し返して申しわけないんですけれども、先進医療の点数の10分の1とかに点数がなってしまうと、結局それが施行されなくなってしまうんですね。その辺の責任というか、医療技術が使われなくなってしまうようなことになるのは問題だと思いますので、あくまで保険医療として続けて行われることが目的なわけですから、その辺をうまくコントロールというか、できないものでしょうか。10分の1になってしまうと全く施行されないということが起きてしまっているんですね。

○猿田座長
 そこは御意見ございますか。点数が余りにも低くなって。

○事務局
 以前の会議でも御指摘いただきまして、そちらにつきましては、医療技術評価分科会の要望でも今回の改定に向けていただいてございますので、関係者の御意見を踏まえながら、中医協でも御審議いただきたいというふうに考えてございます。

○猿田座長
 要は実施されることが大切ですから、今言ったように、保険に変な点数がついて実施されなくなっては困るということかと思います。ただ、今までこの先進医療の出口がなかなか見えなかったものですから、ここである程度、時がたちましたし、症例数も随分行われたものですから、この形で進んでいこうということです。どうぞ。

 ▼ ここで猿田座長が声を荒げて事務局を叱責したと記憶しているが、厚労省の議事録にはその形跡が残っていない。

○金子構成員
 2年前の方法ですと、何年以上先進医療だったものを強制的に分類して、ある程度整理みたいな感じでやられましたですね。今回はそういう構想はないんでしょうか。

○事務局
 書面で評価いただく際に、いつからやられている技術かということを含めて整理して、先生方に御評価いただきたいと考えてございます。

○猿田座長
 ほかにございますでしょうか。取り消しになる場合は、先進医療をやっている先生がやめちゃったとか、そういったことがあったんですね。どうしても専門的な技術ということなものですから。どうぞ、田中先生。

○田中(良)構成員
 保険導入に関する質問なんですけれども、放射線科の分野では、例えば非常に特殊な治療で大がかりな装置を使ってやるような治療というと、保険導入してもいいといっても受けられる患者さんが限られてしまうとか、そういった場合の保険導入の扱いというのは、普及させるという意味で言えば違うような気もするんですけれども、その辺は厚労省の見解はどういうお考えなのかお聞きしたい。

○猿田座長
 例えば、重粒子線だとか陽子線の治療とかあったんですね。

○田中(良)構成員
 そうですね。例えば診断でも、前に脳磁図というのもあったんですけれども、あれなんかも全国で数台しかない。

○猿田座長
 普及性ということで保険がなかなか難しくなる部分もあったんですね。

○田中(良)構成員
 国民一般に高額な先進的な医療を受けてもらうという意味の保険制度からすると、ちょっと次元が違うような話もあるんですね。特定の地域の人だけがその医療を受けられるということになると、問題があるかもしれません。保険導入されることは結構なんですけれども。

○猿田座長
 そのあたり御意見ございますでしょうか。本当に特殊な形の医療になってしまうんですけれども。

○医療課企画官
 前回についても、今回もそうだと思うんですが、今、座長がおっしゃった普及性との関係、あるいは学会等、専門分野の先生方の御意見も聞きながら、その辺のところは保険導入の妥当性ということを、前回もそういうことで検討させていただきましたし、今回もそういうことになると思います。

○猿田座長
 なかなか難しい問題ですけれども、今のところはそうお考えいただければということです。ほかに御意見ございませんでしょうか。
 大体この方針でやっていくということに関しては、委員の先生方、よろしいでしょうか。〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕


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【目次】
 P2 → 「毎回毎回、自己負担分を患者さんに浴びせていくのか」 ─ 嘉山委員(診療側)
 P3 → 「全国一律に同じ診療を受けられるかに関心ある」 ─ 白川委員(支払側)
 P4 → 「保険適用の理由を開示したほうがいい」 ─ 遠藤会長(公益)
 P5 → 「専門の方々の共通認識は我々には分からない」 ─ 牛丸委員(公益)
 P6 → 「普及性は『鶏と卵』みたいな話」 ─ 安達委員(診療側)
 P7 → 「保険で認めればトータルコストは安くなる」 ─ 嘉山委員(診療側)
 P8 → 「重粒子線を全国に普及するのは反対」 ─ 関原委員(公益)

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