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患者の「知る権利」と「知りたくない権利」 ─ 明細書で激論

■ 「プライバシーが出るリスクが非常に高くなる」 ─ 嘉山委員
 

[嘉山孝正委員(山形大学医学部長)]
 勝村委員の心の中は......、私もこういうのはちゃんとやらなきゃいけないと思っているので大賛成で......。(勝村)委員がお考えになった時代がですね、(その後)IT化でかなり進んでいるってことは認識していただきたいんですね。
 確かに昔、フィブリノゲン製剤で薬害肝炎ですとか......。確かにあのころ、明細書があれば誰がどの薬を使ったかが分かるので......。そういうエビデンスがあります。それは(勝村)委員のおっしゃる通りだと思います。

 ▼ 薬害肝炎訴訟に関連して、「カルテなき感染者」が問題となった。病院にカルテが残っていないので投薬の証明ができず、原告適格を欠いて訴訟に参加できない。こうした反省から、明細書を無料で全員に発行することを患者団体などが強く要望、当時の舛添要一厚生労働大臣は無償発行を支持した。

 現在、例えばこれ(明細書発行)をやった場合はどうなのかということで......。理念としてはもう大賛成で、たぶん2号(診療)側は全員賛成なんです。昨日の夜、ちょっと話したんですけど。「なんとか、この情報は出しましょう」ということを考えておりました。

 ただ、薬害肝炎にしても、まだITが何もない時代の話で......。現在、ITがある所では勝村委員がおっしゃるような情報は(コンピューターのデータベースに)残っています。それが1つ。ですから、できるということです、薬害のあれ(投薬証明)は......。
 (厚労省では)IT化していない所は除外(明細書を発行しなくてもよい)ということになってしまうので、簡単に言えば、IT化している所では全部やりたいことができちゃうので、明細書を全員に出す必要はないんですね。

 それから2番目。(明細書を発行する)インフラのことに関しては、医療行為ではないので......。レストランと違って、医療業務を公定価格でやっていますので......。(中略)おっしゃっているように、インフラの整備は医政局マターで、費用のことを考えていただく。

 3番目なんですが、「国立病院でやっている」と言っても全部はまだやっていません。「ナショナルセンター」(NC、国立高度専門医療センター)は全部やっています。
 先ほど、渡辺委員が「プライバシーが分かっちゃう」ということをおっしゃったんですが、明細書を見るとですね、例えば「ニトロール」っていう薬を見るだけで病気が分かっちゃうんですよね。あと、痔の薬などが(明細書に)入っていれば、病名がなくてもですね、プライバシーは完全に分かってしまう。
 私は医療事故の調査書を何度も作っていますが、原疾患、つまり病気を推察できる薬は全部真っ黒に消します。そうじゃないと、プライバシーが全部分かっちゃうから。従ってですね、この3ページ(明細書の様式)だけでも、プライバシーがかなり広く世に出るということです。

 国立の場合、(明細書発行を)やっている病院はですね、「ナショナルセンター」ですから、例えば「がんセンター」に来る人は全部、自分が癌だってことを分かっているんですよね。
 それから、「国立成育医療センター」に行く人は自分の子どもがいろんな病気を持っているんだと......。それから、「国立精神・神経センター」であれば、そちらの関係の病気だってことは分かって入っているので......。

 ですから、勝村先生がおっしゃっていることは全面的に賛成なんですけど、今、ここで明細書を......。僕は明細書を出したほうが良いと思っている。例えば、処置の所で、心臓マッサージ1時間2900円(で街のマッサージよりも安い)ですからね。汗水垂らしても2900円しかないということが分かるので、これは国民に(医療費の)情報が出るので非常に良いとは思うんですが......。

 (勝村)先生の一番の眼目は薬害ですとか、それを防ぎたいと、それが一番の心の内だと思うんです。ですから、これ以外の方法でも......、今4つ言いましたが、薬害を......であれば、IT化をやっている所しかこの明細書を出せないので、(IT化が進んでいない病院は)「明細書を出さなくてもいいよ」と(厚労省は)言っているので、IT化をやっている所には明細書が残っているんですね。なので、全部(の患者)に明細書を出さなくてもいい。

 問題は除外事例ですが、ご本人が意識がないとか、そういう場合にお金を払う人がいるんですね。他人かもしれません。その人が(患者の)プライバシーを分かってしまう......ということも大きな問題になっている可能性もあるんですよ。(中略) 
 現場の細かい問題がまだ検証されていないので、IT化をやっている所で希望者に出してもいいということは基本的に賛成なんですが、問題点をもうちょっと......、現場が混乱しないように検証を......。(中略)

 なるべくIT化を進めて、そうすれば薬害(訴訟などに必要な)......、データが残るので......。表にデータを紙で出しちゃうと、プライバシーが出るリスクが非常に高くなるので、IT化で(データを)取っておいて、ほしい人は持っていくということにすればいいのではないかと思います。
 実際にですね、どれぐらいの人が欲しがって持っていくのかということですね。それもやはり一緒に検証するんですね。でないと......。(ここで遠藤会長が発言をさえぎるが......)

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 分かりました。

[嘉山孝正委員(山形大学医学部長)]
 でないと、「エコ」という面から言ってもですね、(遠藤)先生、紙代がすごいんですよ。(遠藤会長が発言をさえぎる)

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 分かりました。えーっとですね............、賛成されているのか反対されているのか分からず......(会場、笑い)、ずっと最後まで(約7分間)聴いていたんですが......。

 当初、2号(診療)側は「基本的にこれは賛成である」というふうに聞いていた。まず、それが間違いないかを確認したい。ただ、そこに付加的に、「薬害の対策にはこれだけでは不十分なので、ほかのことも考えられるだろう」というお話が一方であったわけです。それは当然の話でありますし......。

 それから、今後これを検証していって、「本当にどれぐらいの人が欲しがっているのかを見よう」というような、これは当然、検証の課題になることは間違いないですね。(中医協の検証部会の調査対象にするかなど)それはともかくとして、22年度改定に、事務局(保険局医療課)が原案として出された。これについてよろしいのかどうか。「よい」というふうに、私は最初うかがったのですが......。(中略)

 ▼ 嘉山委員は、①医政局でインフラの整備について補助を検討すること ②紙代などのコストについて、診療所のみに認める「明細書発行体制等加算」(30円)を病院も算定できるように改めること─の2点を要望した。インフラ整備の支援について、遠藤会長は「中医協でそういう意見があったことを医政局に伝えることしかできない」と回答。「明細書発行体制等加算」の対象を病院にも拡大することについて、保険局医療課の渡辺由美子・保険医療企画調査室長は「レセプトオンラインが義務付けられている医療機関は電子化加算の対象としていない。『明細書発行体制等加算』はIT化が遅れている所の底上げという趣旨で診療所としている」などと否定した。


【目次】
 P2 → 「正当理由ない限り、全患者に無料発行」を提案 ─ 厚労省
 P3 → 「こういう方向でお願いしたい」 ─ 勝村委員(支払側)
 P4 → 「個人情報が出てトラブルを生じることを危惧」 ─ 渡辺委員(診療側)
 P5 → 「プライバシーが出るリスクが非常に高くなる」 ─ 嘉山委員(診療側)
 P6 → 「めちゃくちゃな患者さんが一杯いる」 ─ 邉見委員(診療側)
 P7 → 「保険者が全患者に渡すのが一番」 ─ 西澤委員(診療側)
 P8 → 「医療内容や価格を教えてもらう権利がある」 ─ 白川委員(支払側)
 P9 → 「無理矢理押し付けて渡さなければならないのか」 ─ 鈴木委員(診療側)
 P10 → 「いろいろな観点が混ざって議論の収拾が付かない」 ─ 小林委員(公益側)


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