文字の大きさ

ニュース〜医療の今がわかる

村重直子の眼6・井上清成弁護士


井上
「それは十分に言えます。権利の制限ではなく自己決定だと言えるわけですよね。だから、そういう考え方で通すという手もあります。もう一つの場合は、ニュージーランドのような国が典型ですが、法律で無過失の制度だけでやるんだと決めてしまう」

村重
「過失を問うという発想そのものを持たない国ですね」

井上
「いわゆる事故については、医療事故であろうと交通事故であろうと」

村重
「スポーツの事故とか家で転んだとかもカバーされるみたいですね」

井上
「それこそアクシデントということで考えて、アクシデントに対する補償というのは、この位のものなんだという金額レベルの国民的コンセンサスがあれば、権利を制限したことにはならないわけです。たとえば今、医療過誤訴訟の裁判で慰謝料3000万円を取れるという時に、3000万円という金額自体が本当に権利なのかという問題はあります。世によって時代によって大きく動きます。それを考えると、皆で決めた場合には、必ずしも奪うことのできない権利と言うことはできません。そうなればニュージーランド風に事故はこの位の金額のものなんですよと、皆で考えて、不当でない金額で合意してしまえば、そうすればそれはそれで終わるということで決まりますよね。もう少し実務的にやるのがスウェーデン。補償の金額と裁判の金額がほぼ同じなんですよね。だから裁判をあえて起こすインセンティブがないので、医療過誤訴訟もないんですね。わざわざ弁護士頼んでも同じ金額なら、そりゃ無過失補償にしますよ、当たり前の話です。ただ、ここにはトリックがありまして、例えば慰謝料が概ねないとか、元々の裁判の金額の水準が低いとかの背景事情があるわけです。ところが日本は、戦後すっかりアメリカナイズされてしまったので、損害賠償が高額化してしまったんですね。皆がその意識を持っているので、そのベースで考えると、なかなかスウェーデン風に無過失の金額を裁判に揃えるというのは難しいです。残念ながら現在の国民の意識として、スウェーデン方式を直輸入するわけにはいかない」

村重
「金額がアメリカ並みに高騰してしまったという話ですが」

井上
「並みとは言ってません。ヨーロッパに比べると明らかにアメリカに近くなっちゃっているけれど、アメリカほどは先鋭化はしていないというレベルです」

村重
「医療費がアメリカと日本とではかなり違うじゃないですか。医者の収入もケタ違いなわけですよ。その中でアメリカの医者は収入の何割かを保険料に払ってます。要は、民事訴訟は最後はお金で解決するということで、ハイリスクハイリターンと言いますか、収入も高いし保険料も高いし賠償金も高いということで成り立っている世界です。日本の場合は、給料が安い、特に若いうちはタダ働きが当たり前で、正規の雇用もない、社会保障もない、労災もないという状況で安く安く働いている中で、ほとんど保険料を払えないんですよ。そこのアンバランスもあると思いました」

井上
「バランスがある一定以上崩れたら精神論だけでは通用しません」

  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
loading ...
月別インデックス