文字の大きさ

ニュース〜医療の今がわかる

医療は本当に成長産業になるのか


薬師寺 福岡という地域で医療クラスターを考えるなら、どのようなことに注意する必要があるだろうか。

土屋 一度、県全体で立ち止まって、県の医療行政全体をどうするのか、じっくり考える必要があるのではないか。これまでの地域医療計画では、大学病院に実質ほとんど触れていない。生活圏の中にある施設は全部網羅的に考えたうえで、どのような医療提供体制が県民にとってよいのか考え、さらに10年20年のスパンでやっていくことが必要ではないか。佐賀の重粒子線の話だが、施設費が150億円、年間の維持費が15、16億円かかると思う。1人300万円で治療しても採算が合わない。持続可能な医療クラスターを作ったうえで、看板となる不採算施設として周辺施設全体で支えていく必要がある。

古川 佐賀県がこのプロジェクトを進めているのは、九州有数の会社からかなりのご寄付をいただけるというメドが立ったから。重粒子線技術は日本発なので、それを世界に売り込んでいくためにも、まず自治体が場を提供するという意味はあると思う。外国の患者さんたちに低侵襲で治ったという成果を本国に持ち帰ってもらえれば、ゆくゆくは我が国の医療技術を輸出していくこともできるのでないか。

専門家情報が不可欠

古川 ところで、医療クラスターというのは、どれくらいの範囲のものを言うのだろうか。

土屋 クラスター本体は、歩いていける範囲、構内バスでも構わないが日常的に交流できる範囲になると思う。近隣地区とのネットワークももちろん必要で、移動手段とセットで考える必要はあるだろう。

吉田 私どもからすると、佐賀の重粒子線もアイランドシティも博多駅から10分程度。一つのクラスターとして考えていくことは成立するんだろうなと思った。ところで、どこに医療資源を集中する、あるいは分散して、ここには医療クラスターだと構想を立てるのは誰なのか。県なのか、市なのか、九州全体なのか。国が地域全体のことを考えて立案してくれるとも思えない。

土屋 そこが今の日本の医療の最大の問題。市長が挙げた中に、専門家が入ってない。重粒子線の適用がある患者さんが日本に何人いるのか、今の1人300万円というのも放医研が適当につけた値段で原価計算したわけではない。そういう一番基本的な情報を曖昧にしたまま進んでしまっているのが危険。日本の医者は個々では非常によく働いている。しかし、集団として専門家として情報を出すということは全然してない。

 1  | 2 |  3 
  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
loading ...
月別インデックス