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ニュース〜医療の今がわかる

「平穏死の10の条件」―長尾和宏日本尊厳死協会関西支部長が講演

1、平穏死できない現実を知ろう!

 今の日本は平穏死できません。それを知っておいてもらいたいと思います。医師法の問題があります。医師法21条(*)は、どのようにして亡くなったか分からない「異状死」に医師が遭遇した場合の警察への届け出を義務付けています。この辺りの定義があいまいなこともあって、自分たちの行う医療によって警察に行かなければいけないかもしれないと思うと、医者は委縮した医療をするようになってきました。訴訟を避けるため、余計なことを言ったり書いたりしないようにと委縮しています。医療は本来もっと伸びやかに、大らかに行われるもののはずなのに、おかしな状態になっています。 医者が訴えられたら、社会的な問題にもなりますし、たとえ悪いことをしていないとしても、それだけで仕事ができなくなります。尊厳死の問題で有名な富山県の射水市民病院事件、東海大学事件もありました。家族に頼まれて患者を楽にしようとしても罪になる。日本には尊厳死という概念がないのです。

*医師法21条・・・「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」

2、骨折をシミュレーションしよう! 転倒、入院による認知症


「老いる」ことについてはいろんな定義がありますが、私は筋肉量が減ることだと思っています。若い方は筋肉量が非常に多いです。何歳になっても筋肉を鍛えることはできるので、鍛えることは大事です。大切なのは筋肉と骨ですね。「骨折」というイベントが悪い循環の始まりになることが多いです。「転倒、骨折、入院」ということは、よくありますよね。在宅でもそうです。入院から帰ってきて、また転倒して骨折入院になる。これを2回繰り返すと認知症状が出てきます。手術は成功した、だけど認知機能が落ちたということがありますね。入院しているときに、せん妄などの認知症状が出てくることがあります。骨折しないようにすることが大事ですが、自分や親がそうなった時にどうしてあげたいかは考えておいてください。でも例えば、98歳の人であれば特に何もしない方が本人にとってはよい場合もあったりします。そのほうが幸せだということもあります。手術は成功しても寝た切りになるということはあるので、シミュレーションしておくことが大事です。骨折のその後で大きく運命が変わってくると思います。


3、多額の年金を残さないこと


なぜ胃ろうをするのでしょうか。これには年金問題があります。これだけ不景気で失業者がいるという社会状況の中、家族の年金を10~20万円もらえる場合があるとします。その人が亡くなったら困るから胃ろうにして、家族はそれにすがって生きている。これが結構多いんです。自分の患者さんの中にも「胃ろうチューブの交換に失敗したら訴えるぞ!」と言われるご家族がいます。よくよく聞くと、年金だと言うんです。お金はないならないで貧乏もつらいですが、あったっらあったで財産争いで大変なことになります。


4、平穏視させてくれる施設を選ぶ


施設によって終末期の考え方が全然違います。高齢者の施設としては、療養型病床、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、グループホーム、高専賃、ケアハウス、病院なら療養型病床などいろいろあります。最近は特養の嘱託医から病院に対して胃ろう造設を依頼するケースが増えているんです。大阪・八尾市の医真会病院ではそれを断っています。これは勇気がいることです。その病院の方に「断ってもいいですよね。私たちは間違っていますか?」と尋ねられたので、「全然間違っていないどころか、同志です」と答えました。そういう病院もあれば、胃ろうを造って一日でも長く生かす、100歳を超えていてもそうだと信じて疑わない医者もいます。

特養でも、きちんと看取りをするところもあれば、すぐに救急車を呼ぶところもあります。「ここで死んだら評判が落ちるから」というそうですね。亡くなったら、正面玄関からお見送りをしていく施設もあります。それを見ると入居している方は驚くけど安心するんです。「こうして見守ってもらえるのか」と。東京の鳥海房江さんのところの施設「北区立特別養護老人ホーム清水坂あじさい荘」がそうですね。施設によって考え方が違うと思います。いわゆる「姥捨て山」的なところもあれば、平穏死を熱心に勉強している病院もあります。同じように見えても中身が違う場合があります。


5、往診してくれる在宅医を探せ!

在宅医療の現場では認知症、老衰など様々な状態の方がおられるので、何年も介護をしていると疲れてしまいます。地域の老人病院に預かってもらったり、ショートステイとの連携が大事です。在宅を選択した場合はほとんどが平穏死です。これまで500人ぐらいの方を看取ってきました。勤務医の時代には1100~1500人をお見送りしました。その頃には、病院の価値観に沿って延命する方にしていました。そういう雰囲気と時代でした。今日も昨日も、私が行っている看取りとは異質のものです。在宅死は平穏死だと自信を持って言えます。それに沿う在宅医が必要ですが、どうやって見つけるか。インターネットや口コミで上手にお医者さんを探すことです。元気なうちから探すことが大事です。普段からよく情報収集しておかないと、いざとなったら慌ててうろたえて、というのは大変です。老いはいつか来る、必ずその時は来るから準備をしておくことが大事です。近所のお医者さんを物色するんです。風邪をひいた時にかかってみて、どういう対応をするかを見てください。自分の生活や家族の状況まできちんと聞いてくれるか、顔も見ないでパソコンの方を向いて、聴診器も当てないで「薬を出します」と言うような対応をするのか、ちゃんと見てください。

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