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ニュース〜医療の今がわかる

TPP問題、医療界が押さえるべきツボは②―長尾敬議員に聞く


③日本の医療界への外国資本参入、また混合診療解禁は、そもそも「悪」なのか?

立ち位置によって善にも悪にもなると思います。営利を目的にすることのプラスもあればマイナスもあります。では今の医療界のすべてが善かと言ったら、そうではないと思います。例えば働いている医師や看護師の方々の善意や使命感によってギリギリで成り立っている医療現場もあるでしょうが、一方で"白い巨塔"のような世界もありますよね。「株式会社」だから悪とは言えないし、医療界の中にも善悪はあります。利益を追求しようと思えば、営利企業であれば人の花畑を荒らすようなことは簡単にできてしまいます。医療は市場価格ではないと思っていますから、安ければいいみたいな話になると質は落ちてしまいます。一方で値段を釣り上げていこうというやり方もあるでしょう。しかし医療は命にかかわることなので、やることをきちんとやったらコストはかかってきます。そうやって考えていかないといけないものなので、市場価格で安くしよう高くしようというものではないと思います。

しかし、実際にどうなっていくかは見えないので理論武装が必要です。厚労省や農水省が扱う分野であっても、交渉の前面に立つのは外務省です。100%思うようには伝わらないと思った方がいいと思うし、外務省が入れば日米間交渉の過去の流れにどうしても引きずられてくる部分があります。このため、必ず政治家が内容をチェックしなければなりません。最終的には事前事後の国会承認が要りますからね。

④フリートーク

違う業界の話ですが、自動車関連業界はTPPへの交渉参加を推進していますね。しかし現在フォードと米国自動車工業会は日本に対して、ハイブリッド車の中身と技術を教えろという内容の要求を突きつけてきているんです。どういうことかというと、日本はTPPに参加すれば輸出が多くなって状況はよくなりそうだと見込んでいて、それより円高の方が大問題だと考えている現状です。そこで車を売りたいけど日本の優秀なハイブリッド車の性能が障壁になっている米国は、ハイブリッド車の技術を「渡せ」か「やめろ」と、そういう意味合いに取れる要求を突き付けてきたのです。つまりルールを変えてきた。こういう例は今までにもあって、例えばF1では1988年にマクラーレン・ホンダが16戦中15勝と圧倒的強さを誇っていたのですが、翌年にルールが変わってターボエンジンが禁止されてしまいました。勝てないならルールを変えてくるのが外国の戦略で、TPPにおいては交渉のルール作りが競争になるわけなんですよ。TPPについて慎重な準備が必要と言うのはそういう意味で、相手がどう出てくるか分からないのです。私は根っからの保険屋なので、ことに臨むには準備が9割だと思っています。今後何を突き付けられても、国益を守るだけの理論武装をしていきたいと思っています。TPPについては、日本の文化的なものを崩しにかかられると考えて準備した方がいいと思っています。

オバマ大統領は皆保険制度をやりたかったけどできなかったわけです。それなら日本の方から交渉に際して「それならあなたたちも皆保険制度を作ってくださいよ。それから交渉しましょう」と言うぐらいのことを言えるようになっていいと思います。それぐらいの交渉力が必要ですよね。日本の国民皆保険がなくなったら民間医療保険が入り込んできて、一番儲かるのは保険業界です。向こうは本気で国内法を変えようとやってくるでしょうし、そういう歴史があります。慎重に構えて、ことに臨む準備をしなければなりません。


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