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魚を食べることの血管への影響が最初に注目されたのは1970年代終わり、グリーンランドのアジア系先住民族イヌイットの人々に関する疫学調査でした。イヌイットは、心筋梗塞による死亡率がデンマーク人と比べて極端に低かったのです。その後、カナダの調査で、生魚や生肉を主食とするイヌイットの血中にはEPA・DHAが非常に多いと確認されました。 脳血管疾患と魚摂取の関連に関して、2012年までに行われた26研究を総括的に分析した報告では、18研究で、週2∼4回魚を摂取する人々は、週1回以下の群に比べてリスクが平均6%低下していました。また21研究で、魚の摂取量が最大のグループでは、最小のグループに比べてリスクが平均12%低下していました。日本でも、いくつかの疫学調査が行われ、全国4万1578人を対象とした厚労省調査(2006年報告)で、魚の摂取量と虚冠動脈性心疾患リスクの関係が分析されました。その結果、週に8回魚を食べるグループは、1回以下のグループに比べ、冠動脈性心疾患および心筋梗塞の発症リスクがそれぞれ37%と56%、低下していることが示されました。 世界消化器病学会は、健常者でも週に3∼5回は魚を食べるように勧めています。米国心臓協会も、健常者はEPAやDHAを多く含む様々な魚を最低週2回、冠動脈性心疾患の患者はEPAとDHAを1日1G、血中の中性脂肪値が高い患者は1日2∼4GのEPA・DHAカプセルを、摂取するよう勧めています。まずは魚を食べよう性の「油」に多く含まれます。 不飽和脂肪酸は、さらに細かく分類でき、「オメガ3脂肪酸」という系統に属するエイコタペンタエン酸(EPA)は、昔から疫学的に、食事からの摂取で冠動脈疾患を予防する効果が証明されてきました(コラム参照)。 イワシやサンマなどの青魚に豊富に含まれる脂肪酸ですが、「エパデール」という名称で動脈硬化の進展抑制薬にもなっており、動脈の弾力性を保って血管を柔らかくしたり、血栓を出来にくくしたり、中性脂肪値を改善したりする効果が認められています。粥状動脈硬化の患部(プラーク)を安定化して破裂させにくくする機能も、臨床研究段階にあります。 もう一つ、魚油の主成分であるドコサヘキサエン酸(DHA)もオメガ3脂肪酸で、血液中の中性脂肪値を下げる働きが確認されています。EPAと併せて、「血中の中性脂肪を低下させる」と謳ったサプリメント(機能性表示食品)も多く市販されています。 実際、血中の中性脂肪値は、EPA・DHAを摂取するほど低下するとの報告があります。1日に1G摂取が増えるごとに、中性脂肪値は5∼10%低下し、投与前の中性脂肪値が高い人ほど効果は強いそうです。ちなみに魚で1GのEPA・DHAを摂るには、マグロのトロで2∼5切れ、ハマチで3∼5切れ必要です。 主に植物に多く含まれるオメガ3脂肪酸の「Αリノレン酸」にも近年注目が集まっています。摂取後に一部は体内でEPAやDHAに変換されます。亜麻仁油やえごま油(しそ油)、さらにはチアシードなど、このところ急に名前を聞くようになった油や食材に多く含まれています(ただし、魚油と違って長期摂取の影響は未解明なので、摂り過ぎないようにしておきましょう)。動脈硬化抑制にEPADHAもある