ロハス・メディカルvol.135(2016年12月号)

ロハス・メディカル2016年12月号です。リン酸探検隊パン花粉症の舌下免疫療法、睡眠と性差、頭を使って空腹の時はトレーニングを、有酸素運動と血管内皮の機能の関係、カルシウムサプリの心臓への悪影響、予防接種って何なの3、オプジーボの光と影7など


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LOHASMEDICALVIEW剤費が青天井で構わないとは考えておらず、その許容するICER上限は650万円程度であるとの調査結果があるようです。これを基準にすると、使い方と効果が現在のまま変わらないとするなら、オプジーボの薬価は5分の1程度まで引き下げないといけないことになります。 ただし我が国には、費用負担者である健康な国民の声を医療価格に反映する仕組みがほとんどなく、費用対効果を考える議論も始まったばかりです。結果、オプジーボの登場以前から、非小細胞肺がんで年間何万人にも行われている標準的な化学療法のICERが、軒並み1000万円を超えてしまっています。つまり、日本にNICEのような組織があったなら、オプジーボが登場する前の段階で既に、大幅な薬価引き下げか保険償還を認めないかの選択を迫られるべき状況になっていたのです。 その選択の機会がなかった結果、「健康な国民」の代表たる健康保険組合や、そこに費用拠出する企業が、患者の肩たたきをしたり雇用しなかったりという形で、実質的に薬剤費の支払い拒否を行っている、と解釈することが可能です。健康な人たちの我慢は限界に近づいているのです。 費用負担者たる健康な人にも納得してもらえるような理論武装をできない限り、高額薬剤の保険償還は、早晩認められなくなることでしょう。 国民皆保険制度の根幹は、「困った時はお互い様」の精神で成り立っています。 裏を返すと、健康な人は、自分が困った時にも助けてもらえると信じているから、今すぐ自分にメリットがなくてもお金を払うということになります。この信頼感が失われた時、国民皆保険制度は、その命脈を絶たれます。 また普通の人は、気の毒な患者に代わって自分が困窮してあげようとまでは思わないわけで、払っても構わないと考える金額には、自ずから限度があります。そして、先ほども書いたように、がんの化学療法に関しては、一般国民の誰もが気づかないうちに対効果費用が上限を超えてしまっていて、オプジーボの登場によって、そのことに人々が気づき始めたという現状です。 この不協和な状態を解消するため、オプジーボだけでなく多くの薬や医療行為について診療報酬を下げたり保険から外したりということが必要になるはずなのですが、そこまで乱暴なことは当面不可能とするなら、健康な国民が効果に対して払っても構わないと考える上限を引き上げる、あるいは健康な国民が感じる薬の効果を膨らませる、そんな努力が必要ということになります。 要するに、健康な国民の考え方をガラっと変えられるか否かです。薬剤費を単なるコストと捉えるのではなく、これからも良い薬を手の届く価格で産み出すことに使われる投資だと捉え、現在は健康である将来の患者をも救うことになるのだから、健康な人が払う価値はあるのだと考えてもらうのです。 このような考え方をしてもらえるかどうかの重要なポイントが、「手の届く価格で産み出す」です。良い薬が出て来る可能性は高いけれど、保険に取り込んだら国民皆保険制度が破綻するほど高い、だからお金持ちしか使えない、雇用しないという形の高額薬剤への支払い拒絶健康な人は何に払う?28


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