ロハス・メディカルvol.115(2015年4月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2015年4月号です。


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LOHASMEDICALVIEW代替をさせることをメインにした施設が出てくる程度のことは想定しておいた方がよいでしょう。そのような施設は一気にノウハウを蓄積することが可能で、圧倒的だったはずのリードを一瞬で消されるということは、我が国の他の産業分野で何度も経験してきたことです。 現時点の我が国は、これから説明するように件数をこなすために必要な人材が不足しており、健康保険を適用しない限り、日本で簡単な手術の代用をさせるような使い方は普及しないことでしょう。みすみす逆転されるタネを残しておくようなものです。 さて、1施設あたりの治療件数を増やそうとした時、現実的に障害となりなそうなのは人手不足です。放射線治療医も足りないのですが、それ以上に足りないのが、治療計画を作ったり装置を保守管理したり、さらにはシステムの改良を行ったりする医学物理士です。2014年12月現在で全国にたった812人しかいません。元々は理工系の修士以上でないと受験すらできなかった(現在は基準を満たした診療放射線技師も受験できます)エリート資格です。「がん診療連携拠点病院」(粒子線治療施設の多くは違います)だけでも全国に約400カ所あり、1施設に複数人いることが望ましいので、全く足りないことがお分かりいただけると思います。 ちなみに米国では約6千人の医学物理士が活躍中です。これだけの差があると、米国で炭素イオン線施設が稼働を始めたなら猛烈なノウハウ蓄積が行われ、一気に追いつかれ追い抜かれる可能性を杞憂では片付けられません。 放射線治療医にしても医学物理士にしても、健康保険が適用されて将来の発展が約束されれば、希望者は自ずから増えます。 中川恵一・東京大学医学部附属病院緩和診療ケア部長(放射線科准教授)は「理工系の博士号を持っているけれども安定した職を得られていない研究者たちにジョブチェンジを促せれば、一気に医学物理士は増えますよ」と言います。理系の博士の相当数がワーキングプア状態ということは、STAP細胞騒動の時にも、かなり注目を集めました。 健康保険が適用されれば、粒子線施設では治療件数を増やすため、どんどん医学物理士を雇用し、あるいは育成するようになると期待されます。一方で、健康保険が適用されない限り、そこそこのスタッフ数で、そこそこの治療件数に安住してしまうことでしょう。 こうして見てくると、炭素イオン線に健康保険が適用されないのは、日本全体の利益より医療業界の内輪の利益が優先されているからと言わざるを得ません。日本絶頂期に生まれた虎の子の遺産を、そんな内向きの論理だけに任せて、私たちの世代で食い潰してしまってよいのか、もっと危機感を持つべきだと思うのです。[お知らせ]この連載に大幅に加筆し再構成したロハスメディカル叢書07『幸運のカーボン 醜いアヒルの子が金の卵を産むまで』が近日刊行されます。ご期待ください。鎌田正氏医学物理士が足りない8LOHASMEDICAL


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