ロハス・メディカルvol.116(2015年5月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2015年5月号です。


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慶應義塾大学准教授つじ・てつや●1990年、慶應義塾大学医学部卒業。同大学研修医、助手を経て2000年、英ロンドン大学附属国立神経研究所リサーチフェロー。2002年、静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科部長。2005年、慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室専任講師。2010年より同腫瘍センターリハビリテーション部門部門長。2012年より現職(兼務)。の責務とし、リハビリを施策の3本柱の一つとしました。 これに基づいて2007年に策定されたがん対策推進基本計画に「がん患者に対するリハビリテーション等について積極的に取り組んでいく」と明記されたのです(2012年からの第2期でより具体化)。 また、2010年のがん患者リハビリテーション料新設は、医療機関の体制整備を後押ししました。 「全国で約400カ所指定されているがん診療連携拠点病院には、元からリハビリ療法士も多く、下地がありました。これに対し遅れていたのが、がん治療に特化した国公立のがんセンターでした。それでも近年では、リハビリ科を開設し、人員も配置する病院が増えてきました」と辻准教授。 このがんリハビリ、必要とする人が必要な時に受けられるという状態には、残念ながらなっていません。 まず提供体制の限界があります。辻准教授は「国による制度の違いはありますが、例えば慶應義塾大学病院では、入院患者約800人に対しリハビリ療法士が12∼13人います。一方、米国のMDアンダーソンがんセンターでは、入院患者平均625人に対しリハビリスタッフが約80人と、7倍以上の割合です」と説明します。医療機関にも常勤のリハビリ科専門医はおらず、リハビリ療法士もごくわずかでした」と振り返ります。 そんな状態では、がんリハビリの普及など夢のような話だったわけですが、2006年にがん対策基本法が成立し、さらに2010年の診療報酬改定で「がん患者リハビリテーション料」が新たに保険収載されたことから追い風が吹き始めました。 がん対策基本法は、「がん患者の療養生活の質の維持向上のために必要な施策を講ずる」ことを国や地方公共団体さらに普及を望むか国民の意思次第 また、保険の効く範囲も入院中に受けるものに限られています。予防的リハビリは入院前から始める必要があります。また、退院後に後遺症が続いていたり働きながら治療を続けたりする場合、外来でのリハビリ指導が必要です。そうしたものは「がん患者リハビリテーション料」でカバーされないのです。 ただし、では提供体制を米国並みにすればよいのか、外来や在宅でも保険を使えるようにすればよいのか、と言えば、そんなに単純な話ではありません。範囲を広げた分だけ医療費は膨らみ、社会の負担が増えるからです。患者と健康な人の利害衝突です。 ただ、この問題に関しては、2人に1人ががんになる時代だけに、比較的簡単に利害調整できる可能性もあります。がんリハビリの今以上の普及を望むか、国民レベルで議論してもよいのかもしれません。辻哲也7LOHASMEDICAL


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