ロハス・メディカルvol.124(2016年1月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2016年1月号です。


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のがなくなったら鎮まってくれないと困ります。このため適当なところで鎮まるようブレーキも備わっています。 これら自分の体を守るためのブレーキに当たる仕組みが、先ほど名前の出てきた「免疫チェックポイント」です。 世界的な大騒ぎを呼ぶきっかけとなった免疫チェックポイントは、免疫の白兵戦担当である細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)が細胞表面に出しているPD-1という分子に、がん細胞のPD-L1(もしくはPD-L2)という分子が合体すると、T細胞が攻撃しなくなるというものでした(右図上参照)。 PD-Lは、T細胞に襲われそうになった細胞が攻撃を免れるため出すものですが、がん細胞では特に多く出すことがあります。 この分子合体を邪魔するため、PD-1にくっつく薬(P D-1抗体)とPD-L1にくっつく薬(PD-L1抗体)が、それぞれ開発されました。 それぞれの薬に細胞を殺す働きはありませんので、使った後にがん細胞が減ったとしたら、薬によって免疫が働いてがん細胞を攻撃したからと解釈するのが自然です。 PD-1抗体のニボルマブという薬は、既に我が国でも悪性黒色腫を対象に承認・保険適用されており、他にも非小細胞肺がん、腎細胞がん、悪性リンパ腫、中皮腫、大腸がん、卵巣がんなど各種のがんで効く人が見られたと報告されています。作用の仕組みが想定通りなら、理屈上がんの種類はあまり関係なさそうです。 大腸炎や下痢、重症筋無力症、皮疹など自己免疫疾患に似た副作用は出ますが、従来の抗がん剤に比べると重篤になる頻度は少なめのようです。また、これも作用の仕組みが想定通りなら当然のことではありますが、一度効いたら効果が長続きする傾向もあるようです。 この薬が成果を出すまで、患者の体内でPD︱1をスイッチとしてT細胞の攻撃にストッパーがかかっており、そのスイッチ作動を妨害すればがんと対抗できるようになる、というのは、仮説に過ぎませんでした。今では、ほぼ確定的事実として受け止められています。 そして、これが事実だとするなら大いに期待できるだろう、もう一方のPD-L1抗LOHASMEDICALVIEW体も、臨床試験では膀胱がんや非小細胞肺がん、トリプルネガティブ乳がん※などに効果が見られ、間もなく承認されるのでないかと考えられています。 また実は、免疫チェックポイントと、その阻害剤は他にもあって、最も早く米国で承認されたのはCTLA︱4抗体というものでした。これがどこでどう働くと考えられているものなのかは次項で説明します。 二匹目、三匹目のドジョウを狙って、様々な免疫チェックポイント阻害剤の開発競争が世界中で始まっています。※エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、の3つ(トリプル)があまり発現していない(ネガティブ)乳がん。現在の治療薬は、それらの受容体をターゲットとして開発されているため、トリプルネガティブだと薬剤治療の選択肢が少なく、予後も悪いことで知られる。21-と-そして大競争時代へ


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