ロハス・メディカルvol.127(2016年4月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2016年4月号です。


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こまむら・かずお●循環器内科医。兵庫医大非常勤講師、横浜市大客員教授。過去に国立循環器病センター研究所室長、兵庫医療大教授など。労省の統計によれば、患者数の多い病気は順に高血圧性疾患、歯周病、糖尿病、高脂血症、むし歯、心疾患、悪性新生物(がん)、脳血管疾患、喘息、気分障害(躁うつ病含む)まで年間100万人を超えている。 これらの病気の多くは、世間で言う生活習慣病である。だが、私は「通り道の病」と考えている。大気汚染の地域で喘息が発症したら、それは「息を吸う生活習慣」のせいではなく、吸い込んだ大気に問題がある。 口から入るアルコール、酸化脂質の多い食事あるいは食物繊維の少ない食事は、通り道である消化管に病気をひき起こす。入口である口腔内で歯周病を起こし、途中で胃癌を起こし、出口では大腸癌もひき起こす。 血管系は循環しているので入口も出口もないとお思いだろうが、私は、口が入口で、出口は腎臓だと考えている。口から入れた水分と塩分は、適切に尿に排泄されないと高血圧をひき起こし、血液の通り道である血管を傷つける。摂り込んだ過剰の脂質と糖分は、動脈硬化と高血糖をひき起こし、やはり血管を傷つける。 たばこや汚染大気を長年吸い続けると、通り道である気管支や肺胞に喘息、COPD、肺癌をひき起こす。 「通り道の病」を防ぐには「通る物」を選ぶ必要がある。減塩食、良い脂肪や繊維の多い食品、ノンアルコールやシュガーレスの飲料、新鮮な空気など。どうしても叶わぬ時は、通り道を塞ぐしかない。断食、禁酒、息をしないわけにゆかないのでマスク。時々これらをすると健康が取り戻せることを、皆さんも経験上実感されていないだろうか。 昨年末、法的に義務化されたストレスチェック制度は、企業内で増え続けるうつ病への国の対策だ。私は、神経系の病気も神経ケーブルという「通り道の病」と考えている。通る物は物理的刺激や言葉によるメッセージである。光や音、臭いや振動といった物理的刺激が過剰かつ長期にわたると、それだけでうつ病の原因になる。実際に最も多いのは意味のあるメッセージ、読み聞きされる言葉である。長時間労働で処理しないといけない情報が多過ぎることは十分うつ病を起こしうるが、パワハラ的な暴言が長期に続いてもうつをひき起こし、逆にいじめで無視されコミュニケーションを奪われてもうつにつながる。通り道を塞ぐことは、ここでも回復のきっかけになる。仕事を休み、都会の喧騒を離れて静かな環境に身を置く。長時間労働で光と音にさらされ続けた身体に本来の昼と夜の時間を与える。過剰なあるいは暴力的な情報には目をつむり、耳を塞ぐ。 今年は申年なので、「見ザル、聞かザル、言わザル」三猿の意匠をよく見かける。「通り道の病」には「見ザル、聞かザル、食わザル」が効く。ただし、摂食障害のあるうつ病の人に限っては、前2つだけにしていただきたい。第4回見ザル、聞かザル食わザルの健康法駒村和雄LOHASMEDICALVOICE厚12


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