ロハス・メディカルvol.135(2016年12月号)

ロハス・メディカル2016年12月号です。リン酸探検隊パン花粉症の舌下免疫療法、睡眠と性差、頭を使って空腹の時はトレーニングを、有酸素運動と血管内皮の機能の関係、カルシウムサプリの心臓への悪影響、予防接種って何なの3、オプジーボの光と影7など


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こまむら・かずお●循環器内科医。神戸学院大学教授。過去に国立循環器病センター研究所室長、兵庫医療大教授など。を使うと腹が減る。そんなのはきっと自分だけなのだろうと一度もまじめに調べたことはありませんでした。ですが、たまたま知った最近の論文によると、これはどうも普遍的な事実のようです。しかも頭を使った後に運動すると、その後の食事では、普段より少ないカロリーで満腹すると書いてあり、さらにびっくりしました。 この論文で行われた実験は、米国アラバマ大学の学生さんに大学院入試レベルの問題を20分間解いてもらい、その後で15分間休憩する組と、15分間トレッドミルでトレーニングする組に分かれ、それからピザ食べ放題の昼食を摂ってもらうというものでした。どちらの組も、あらかじめ別の日に何もしないで食べ放題の昼食を摂ってもらい、その摂取カロリーを対照としました。 結果、休憩組は対照より100キロカロリー多く、運動組は対照より25キロカロリー少ない摂取量だったとのこと。研究では、採血も同時にしていて、運動組では血中乳酸レベルが高くなっていたので、それが脳のエネルギー源となり、摂取カロリー量が少なくても済んだのだろうと推測されていました。 脳は意外とエネルギーを使うものだな、と改めて思いました。人間の大脳が発達した理由は、脳への血流量の増大であるとの論文も最近発表されました。頭蓋底を貫く動脈孔の太さを300万年前の類人猿と比較すると、現代人は動脈が太くなり脳への血流量が6倍に増加しているとのことでした。大脳の旺盛な代謝がそれによって支えられ、現代人の脳は巨大化できたのだろうとの由です。 運動が認知症を予防する、ニューロンは運動で増える、認知機能や記憶力が運動で維持・改善される、など運動と脳に関する様々な新知見が発表されています。どの報告でも、運動で増える脳由来神経栄養因子というタンパク質がキーワードになっています。ただ筆者は循環器内科医なので、栄養因子などという小難しい分子生物学よりも、血流量という単純な物理学の方が理解しやすいです。運動で増えた血流に乗ってより多くの酸素が、そして乳酸やブドウ糖などの栄養分が大量に補給された結果、脳代謝が活発化したのだろうと。 残念なことに、認知症患者に対する運動の効果についての最も新しい系統的レビュー(複数の研究を集めて研究成果を統合した報告)では、明らかな効果についてのエビデンスは認められなかったとのことでした。ひょっとすると認知症が完成してしまってから脳血流や栄養因子を増やしても元に戻らないのかもしれません。 普段から、頭を使ったら運動して脳血流を増やしておくのが良いのかもしれませんね。今年の受賞者には名を連ねなかったものの、京都大学の先生方がノーベル賞受賞者の常連であるのは間違いありません。京都が散策に適した環境で歩き回るのが良いのだ、とかという噂もありますね。最終回頭使って空腹なら食べる前に運動を駒村和雄LOHASMEDICALVOICE頭7


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