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うしじま・としかず●1986年、東京大学卒業。同大学血液内科医、がん研究振興財団リサーチレジデントを経て、91年より国立がんセンター研究所研究員。2011年より現職。専門は分子腫瘍学、エピジェネティクス。国際ヒトエピゲノムコンソーシアムの科学委員も務める。変異が起きたのと同じことです。そのような異常が重なれば、最終的に発がんに至ります。 このタイプのがんの代表例が、ピロリ菌感染の慢性炎症後に起きる胃がんで、その他、ウイルス性肝炎に続く肝がんや、潰瘍性大腸炎からの大腸がん、HPV感染後の子宮頸がんも、同類と考えられています。 「遺伝子変異が滅多に起きないのに対して、エピゲノム異常は何割もの細胞に同じ異常があるという、とても高い頻度で発生します」と話すのは、国立がん研究センター研究所エピゲノム解析分野の牛島俊和分野長。エピゲノムの中でもDNAに付いて発現させない目印になる「DNAメチル化」の異常について研究を進めています。 このタイプのがんの厄介な点は、たとえ腫瘍を切除したとしても、がんになりやすい状態の細胞が他にも大量に存在するため、容易に多発することです。牛島分野長らが内視鏡切除した胃がん約800症例を3年間追跡したところ、DNAメチル化のレベルが高い人は、低い人に比べ2・3倍も再発しやすかったのです。この「再発」には、元の腫瘍由来でないものも含まれると考えられます。 異常なDNAメチル化はどうして起きるのでしょう。牛島分野長らは、慢性炎症との関係を明らかにしてきました。 牛島分野長らは、ピロリ菌に感染した人の胃では、感染していない人に比べてDNAメチル化異常がより多く誘発、蓄積されていることを確認。動物実験から、ピロリ菌に感染していても薬で炎症を抑えた場合には、DNAメチル化異常が大幅に抑制されることも分かりました。DNAメチル化異常の誘発には、ピロリ菌に感染するだけでなく、それを原因とする慢性炎症が重要だということです。 ただしまだ、慢性炎症がどのようにDNAメチル化異常を誘導するのかは、分かっていません。マクロファージなどの免疫細胞が活性化して分泌されるサイトカイン(情報伝達物質)によって、エピゲノムの制御機構が攪乱されるのではという仮説が有力です。 「例えばピロリ菌による胃炎と違って、深酒でヒドイ胃炎ができてもDNAメチル化異常は起きません。誘導メカニズムを解明できれば、良い炎症と悪い炎症が見分けられ、治療の必要な炎症かどうかを見極められます」LOHASMEDICAL頻度が高いメカニズムは未解明 小児がんにも、エピゲノム異常によるものが多くあります。そもそもエピゲノムは、胎児期から乳幼児期までは、環境や栄養等の影響を受けて劇的に変化します。その過程で、間違った目印が遺伝子に取り付いてしまった結果、がんになると考えられます。代表的な小児固形がんの神経芽細胞腫では、予後の善し悪しとDNAメチル化の度合いが相関することも分かっています。小児がんにも多い牛島俊和