ロハス・メディカルvol.111(2014年12月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2014年12月号です。


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スピード100倍が必要人ひとりにオーダーメイドで作成され、その作成に数日かかります。 対する新しい照射法は、3次元スキャニング照射と呼ばれます。細いままのビームで腫瘍のある深さの断面を塗りつぶし、次に少し浅い断面を塗りつぶし、というのを繰り返して、全体で腫瘍をそっくり立体的に塗りつぶします(図下)。 ビームを腫瘍の形そのままに当てるので正常組織への影響を減らすことができ、重要臓器に隣接したがんなどに大きな威力を発揮すると考えられています。また、ボーラスとコリメーターが不要なので、治療開始までの待ち時間が短くなり、不要なビームをカットする際に発生する中性子、そして放射性廃棄物も減ります。何週間か要するような治療期間中に腫瘍が縮小してきたような場合も、その形に合わせて照射範囲を狭めることができます。さらに、ビームの利用効率が高く、その強度を低く運用できるため、もし新たに施設を建設するなら放射線遮蔽に必要な建屋のコンクリート壁が薄くても済むようになります。 つまり、副作用が減ること、結果として1回あたりの線量を増やして照射回数は減らせること、治療に必要な道具と待ち時間も減るということが期待できるのです。副作用のこと以外は、要するに収支の合う治療単価が下がることにつながります。保険収載や世界展開のことを考えると極めて意義が大きいのです。 良いことずくめのようですが、実は炭素イオン線の3次元スキャニング照射自体は、既に1997年からドイツ重イオン科学研究所(GSI、現在はハイデルベルク大学に移行)で実施されていて、しかしその成績は、拡大ビーム照射法のHIMACほどには評価されてきませんでした。 評価の低かった大きな理由が、前回説明した呼吸同期照射ができず、患者数の多い胴体のがんに使えなかったことです。1997年ということは、HIMACで既に前年から呼吸同期照射が始まっていました。しかし当時の技術では、3次元スキャニングと呼吸同期を両立させることができなかったのです。 この技術的な限界は、HIMACで3次元スキャニングが導入されるまでに長期間を要した理由でもあります。「もっと早く挑戦するべきだったのかなとは思いますけれど、怖くてできなかったんですよね。もし意図通りに当たらなかったら、すぐ命に関わるような事故ですから」と遠藤真広・九州国際重粒子線がん治療センター副センター長は振り返ります。 呼吸同期照射を用いると、腫瘍の位置の誤差は数ミリに収まります。拡大ビームならそれで十分なのですが、スキャニングの場合はビーム自体の幅が数ミリしかありませんから、腫瘍の一部を逃がしてしまう可能性、正常組織に大量に当たってしまう可能性もあります。どうしたらよいでしょう? 「塗り絵をムラなくキレイに塗るには、一気に塗らないで、薄く何度も塗り重ねますよね。それと同じ原理です」と古川卓司・放医研重粒子医科学センター次世代重粒子治療研究プログラム照射ビーム研究チームチームリーダーは解説します。 ただし、呼吸に伴う臓器の動きを無視できるほど素早く1回分を照射LOHASMEDICALVIEW5LOHASMEDICAL


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