ロハス・メディカルvol.111(2014年12月号)

患者と医療従事者の自律をサポートする月刊情報誌『ロハス・メディカル』の2014年12月号です。


>> P.21

生着し、転移と同じ状態になっていました。対して、投与したマウスでは、ほとんどがんは認められませんでした。 さらに竹下部門長たちは、ヒトの転移性膀胱がんの細胞株でマイクロRNA︲582の発現が著しく下がっていること、しかも悪性度が高いほど発現の低下している患者の割合も多いことを、初めて明らかにしました。 膀胱がん細胞にマイクロRNA︲582を補うと増殖や浸潤が抑えられることも、培養細胞レベルで確認。そこでマウスの膀胱にヒトのがん細胞を注入し、生着させてからマイクロRNA︲582を2週間に合計6回、注入投与して観察しました。すると、投与したマウスでは、比較対照群のマウスと比べて膀胱がんの増殖が3分の1程度に抑制されたのです。肺転移も、比較対照群では8匹のうち5匹(63%)だったのが、投与群では1匹(10%)のみに認められました。 「膀胱がんは全体としては治癒率が比較的高いものの、体質によっては再発を繰り返し、次第に悪性化することで知られます。現在、浸潤性の高い膀胱がんには人工膀胱となってしまう外科手術か、BCGのように大変に痛い薬しかないため、RNAの補充療法に期待がかかっています」 マイクロRNAの働きを抑えるタイプの薬は、既に臨床試験に入っているものもあります。例えば、肝臓がんにつながるC型肝炎に対して、マイクロRNA︲122の働きを抑制することで肝炎ウイルスの増殖を封じ込める薬が、第Ⅱ相試験を終え高い有効性を示しています。 ただ、マイクロRNA補充療法の実現にはまだ、「乗り越えねばならない壁があります」と竹下部門長。 まず、がん細胞までマイクロRNAが届かなければ意味がありません。動物実験でも、マイクロRNAを静脈に注入すると「ほとんどは細胞に入っていかずに消えてしまいます。おそらく代謝され、排泄されてしまうのでしょう」 副作用も問題です。 動物実験では、拒絶反応を抑えたマウスの体にヒトのがん細胞を生着させ、そこにヒト型のマイクロRNAを補充しました。ヒト型マイクロRNAがマウス正常細胞の遺伝子発現に及ぼす影響は、ヒトの場合とは異なると推測されるので、副作用を試験するには不十分です。また、ヒトに投与するとなると、元々正常細胞で普通に発現しているマイクロRNAですから、正常細胞にも等しく届いたら過剰になってしまう可能性があります。 マイクロRNA︲582など、がん種によって発現が上がったり下がったりするものは逆効果の恐れもあります。また、マイクロRNA1種類で平均200個のタンパク質発現を制御しているとの報告もあり、どこにどんな影響が出るか、分かったものではありません。 狙った細胞のみに一定量を届けるという方法が不可欠です。 先のC型肝炎の治療薬では、マイクロRNAを脂質二重膜のカプセルに閉じ込めて静脈に注入します。血中のリポタンパクからヒントを得たもので、「肝臓にコレステロールが運ばれる仕組みを利用しているので、比較的効率よく届くようです。肝炎や肝臓がんなら使える方法ですね」 他にも、がん細胞にくっつく抗体と掛け合わせる方法などが研究されています。課題は投与方法LOHASMEDICAL


<< | < | > | >>